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翌朝、カヤが目を覚ますと
「起きたかい?」
と声が降ってきた。体を起こすと暁が怒ったように仁王立ちになりカヤを見下ろしていた。
「暁姐さん・・・。」
「こんなところで何してんだい。」
「あ・・・。」
カヤは慌てて回りを見渡した。目の前には柵があり、柵の向こうでは太陽の光を反射させてきらきらと木々がきらめいている。昨夜、あのまま縁側で眠ってしまったのだ。
「ごめんなさい!」
自分の状況を把握してカヤは慌てて立ち上がりぺこりと頭を下げる。頭を下げすぎて、寝起きの体はぐらりと揺れた。暁は怒った顔を崩さずにカヤを支えると、俯いたカヤの顔をぐっと覗き込んだ。そして厳しい声で言う。
「私は別にあんたがここで寝ていたことを怒ってるんじゃない。布団も何も羽織らずに寝ていたことを怒ってるんだ。こんな時期にこんなところで布団も被らず寝たら風邪をひくだろ?トヨはここに来て初めての秋だ、まだ里の寒さにも慣れてないんだよ。」
トヨの名前が出てきて、カヤはあっと隣を見る。トヨは敷布団の上に寝かされ布団が被さっている。自分の足元にも布団一式があった。どうやら暁が布団を敷いてくれたようだ。ごめんなさい、とうなだれるカヤに暁は続ける。
「さっき起きてから私がトヨのことを言うまで、あんたはトヨのことを一度も見なかったね?それじゃだめじゃないか。あんたがトヨを守るんだろ?だったらちゃんとトヨのことを見ていなさい。それが、守る者の責任だよ。」
「はい・・・。」
「分かったならそれでよし。」
「あのっ!」
カヤは立ち上がろうとした暁の袖をぎゅっと引っ張った。
「ん?」
「あの・・・昨日のこと。暁姐さんにひどいこと言っちゃって、ごめんなさいっ。ほんとは、ほんとは暁姐さんのことも、紅葉姐さんのことも、皆のこと、大好きなんです。本当にごめんなさい!」
カヤの目に涙が浮かぶ。
「そのことはもういいよ。私も悪かったからね。」
「でも、暁姐さんのこと蹴っちゃった・・・。」
「そうでもしなかったら、今ごろトヨはお空の上だよ。カヤが助けてくれたんだ。」
「でも・・・。」
「これからはあんたがトヨを守っていく。私が二人を守るから。ね?」
「はい・・・。」
「さ、この話はおしまいだ。早く泣き止まないと、泣き虫小僧になっちゃうよ。」
暁はカヤの瞳から流れる涙をそっと拭った。
「トヨを起こしたら鶴田屋に行きな。うちの母屋が使えないからね。そこで朝食を摂ったら一日の始まりだよ。」
「はいっ!」
カヤの大きな返事に微笑み、カヤをぎゅっと抱きしめてから暁は部屋を出て行った。
「トヨ、起きて。朝だよ。今日は鶴田屋のご飯だって!」
カヤがトヨの体を揺さぶると、トヨは寝ぼけ眼で顔を上げた。
「一日の始まりだよ!」
カヤはへへっと笑ってトヨを抱きしめた。
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