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そんな燕が、十七になった冬に死んだ。あまりにも突然のことで、牡丹の里に衝撃が走った。燕は十七回目の正月を目前にして妊娠が発覚し、そのひと月後に、階段から落ちて流産した。階段から落ちた燕を一番最初に見つけたのは翠だった。
「大丈夫、ちょっと転んだだけだから。」
泣きながら助けを呼ぶ翠に、燕はそう言った。
「あたしが翠を助けるって決めてたのに、あたしがあんたに助けられちゃったね・・・。」
痛む腹を抑え、真冬に似つかわしくないほどの汗を滲ませながら、燕はえへへと笑った。
「ありがとう、見つけてくれて。心配しなくていいからね。」
泣きじゃくる翠にそう言うと、燕の意識はすっと遠のいた。騒ぎを聞いて暁が駆けつけたとき、燕の着ていた艶やかな紫の着物は血で、べっとりと黒くなっていた。
赤子は死んだが燕はまだ生きていた。しかしその年の寒さは隅田川が凍るほど厳しく、弱りきった燕の回復を望むことはほぼ不可能だった。
「いいかい、翠。あたしは花魁にはなれなかったけど、翠は花魁になれるんだ。誰もが見惚れるくらいの、美しい花魁になるんだよ。それで花魁道中を歩くんだ。あたしはちゃんと、あんたのこと見てるからね。」
燕は泣き止まない翠の頬を撫でるとふわりと微笑んだ。翠が何度も頷くと、燕は安心したように目を閉じた。翠の頬から燕の手が離れて、翠の泣き叫ぶ声が母屋中に響き渡った。
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