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牡丹屋は、隅田川の上流にある色里・牡丹の里の頂点に立つ遊女屋だ。里の奥に堂々と構えられた二階建ての豪華な屋敷を持ち、遊女と禿合わせて十五人ほど、それと同じくらいの男衆(おとこしゅう・男性の使用人)や世話役(せわやく・遊女を引退した女)が働いている。牡丹屋以外にも里には鶴田屋、鈴木屋、霧里屋、沢屋という四つの遊女屋がある。それら遊女屋が里を囲むように立ち並び、里の真ん中に小間物屋、反物屋、酒屋といった店が立ち並んでいる。江戸の中心部からはかなり離れてはいるが、遊女屋の質の高さ、里の活気、自由さに惹かれてやって来るものは多い。中には大名や人気絵師なども多く、牡丹の里は知る人ぞ知る「名色里」として人気を誇っていた。
そんな牡丹の里の頂点に立つ牡丹屋は、引込禿(ひきこみかむろ・将来花魁になると見込まれた禿)となったカヤを温かく、優しく、ときに厳しく教育した。中でも最もカヤの面倒を見ていたのが、牡丹屋の女将である暁(あかつき)だ。暁は、二十二で遊女を引退し、四年の女将修行を経た後に二十六歳で晴れて女将となった。牡丹の里の中で一番若い女将だったが、その人格と頭の良さから牡丹屋の者だけでなく、他の店の女将や遊女、里の者たちから慕われる女将となっていた。将来性のある引込禿はそのときの花魁が教育するのが一般的だが、牡丹の里では代々女将が引込禿を教育することになっているのだ。
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