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カヤと暁
暁が女将になった直後に牡丹の里にやって来たのがカヤであった。里に連れてこられた子どもたちは遊女屋の女将と花魁たちが集って開かれる「品定め」を経てそれぞれの店に売られる。カヤの他にも連れてこられた子は三人いたが、暁はカヤを一目見てカヤを買うと決めた。自分が親に売られたことを知り泣きはらした目をしている子どもたちの中で、カヤは目を真っ赤にしながらも真っ直ぐに前を向いて立っていた。
「私はカヤを買う。」
品定めが始まって一息つく暇もなく暁は言った。カヤも含めて、皆が一斉に暁を見る。
「ちょっと、暁姐さん!そんなに早く決めちゃっていいのかい?」
牡丹屋の看板遊女で花魁の紅葉が慌てている。暁にとってこれは女将になって初めての品定めなのだから、もう少し慎重になれというのだ。しかし暁の心はすでに決まっていた。暁はカヤをじっと見つめた。カヤも暁をじっと見つめる。
「はいはい、牡丹屋さん。牡丹屋女将の言うことは絶対だからね、その子は牡丹屋さんに売るよ。」
人の好さそうな年老いた女衒(ぜげん・人身売買の仲介人)はカヤを暁の元へと連れてきた。
「この子はわしが見たところ上玉か、もしかしたら極上かもしれん。ひと目で見抜いたあんさんの目はなかなかのもんじゃ。あんさんは、牡丹屋の看板をしょっとる。そのことを忘れずにな。」
「はい。ありがとうございます。」
暁はカヤの手を握ると女衒に頭を下げた。
「はいはい、他のお店さんはどうじゃ。鶴田屋さん、決まったかの。」
女衒は何事もなかったかのように他の子どもと大人たちの元へと戻っていった。
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