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皆が解散すると、カヤはトヨを連れて風呂場に行った。暁に
「どうしたらトヨの身なりが良くなるか考えてやってみな。」
と言われたからだ。風呂場は母屋の一番奥にある。
「風呂場があるのは遊女屋だけで、しかも使えるのは女将と遊女だけなんだ。世話役さんたちは里にある牡丹の湯っていう風呂屋を里の人たちと使ってる。」
赤い暖簾をくぐるとカヤは引き戸をがらりと開けた。誰もいない広い脱衣所でトヨの着物を脱ぐよう指示すると自分も着ていたものを脱ぎ、腰あたりまで伸びている髪を纏めた。そしてそのまま壁の向こうにある洗い場へとトヨを誘った。
「お風呂、入ったことある?」
カヤの問いにトヨは首を横に振った。カヤはトヨが初めて反応してくれたと嬉しくなって、にっこりと微笑んだ。
「じゃあそこの桶に湯舟からお湯を取って・・・そうそう。それで自分の体にかけるんだ。」
手本となるように桶を手に取って自分の体へと湯をかける。トヨもカヤの真似をして恐る恐る自分の体に湯をかけた。桶が空になるとまた湯をすくって体にかける。今度は少し慣れたのか勢いよく自分にかけた。その勢いで空になった桶の縁がこつんとトヨのこめかみに当たり、トヨが顔をしかめた。その顔がなんともおかしくて、カヤは思わず吹き出した。
「あはは、あたしのときとおんなじだ。あたしもね、初めて風呂に入ったとき今のトヨみたいに頭に桶が当たったんだ。可笑しいね。」
けらけらと笑うカヤを見て、トヨはぎこちなく口角を上げた。初めて見るトヨの笑顔だ。
「案外可愛いんだね。」
カヤはまたにっこり笑ってトヨの背中に湯をかけた。
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