そして、セカイは裏返る。

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「とまあ、これは冗談で。さすがにあそこまでオバケみたいなモンスターだと思ってませんでしたし」 「おいちょっと待てギルバート、しれっとオバケ言うな!あたしの絵はちょっと味があるだけなんだから!」 「ハイハイ。……まあ実際は、思ったより普通の人間っぽい外見でしたよ。最初はびっくりしたもんです。むしろ、普通の人間だったからこそ、この世界に恨みを持って、世界征服を目論んだのかなって。魔王にも、きっと世界に対して主張したいことがあったんでしょうねえ。実際、貧富の差は激しかったし」  魔王にやや同情的なことを言うと、ふん、とゴーマは少し機嫌を悪くしたように鼻を鳴らした。 「それを倒した勇者様が何言ってんだか。そもそも、いくら世界に恨みがあったからって、無差別に疫病やモンスターを撒き散らしていいなんてことにはならねえ。そうだろう?本当に恨みがあるってなら、直接憎い権力者を殺せばいいだけってな話だ。俺らは関係ねえ!」  それはっきり言っちゃうのは、果たしてどうなんだろうか。まあ、みんなも心のどこかで同じようなことを思っていたのだろう。酒も入っている男達は、口々にそうだそうだ、そのとおりだ!と囃し立てている。 「何が目的だろうが、もうどうだっていいことだ。魔王のことより勇者様と、これから先の未来のことの方が大事、そうだろう!?」  ぐい、とゴーマは再び酒を仰ぐ――それも酒瓶ごと。あまりにも豪快な飲みっぷりに、周囲の酔っ払い達から歓声が上がった。 「だってもう、魔王は現れねーんだからよ!というわけで魔王の話より、勇者様の話をしてくれ!な?」 「うげ」  やっぱりその話題からは逃れられないのか。ギルバートはややしょんぼりしながらも、さてどこまでオブラートに包んで話をするべきなのか、と考えた。何故ならば。 ――どうせ、話しても興味なんか持たないんだろうなあ。貧しくて、苦しんで苦しんで生きた人の話なんて。自分が今幸せなら、他の誰かが悩んでいたって無関係だって言い切るような人たちなんだから。  やっぱり、世界なんてそうそう変わるものではないのだ、と思う。こんな人間たちに任せておいては、いつまでも勝つべき者は勝てず、救われるべき者は救われないのだと。 ――まあ、仕方ないか。……これからは“勇者”として、世界を征服する方法を考えるだけのことだ。  誰も彼もが気づいていない。  魔王の姿を見たものが勇者一人であるということ。  勇者が魔王を倒すところを誰も見ていないということ。  そして。  その戸籍も持たない勇者(ギルバート)が、それまでどこでどうやって生きていた人間だったのか、誰も知らないということを。 ――いずれ世界は裏返る。……今に見ていろ、人間ども。  グラスで隠した口元を小さく歪めて。“元・魔王”は、ひそかに世界を嘲笑したのだ。
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