そして、セカイは裏返る。

3/4
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「モンスターの……あれなんつったっけか?テオ・タイガーだ。あいつ本当に面倒だよなあ、集団で襲ってくるし、牙は鋭いし、しっぽにはとんでもない毒も持ってるからなあ。あれで何人毒食らって、死んだり病院送りになったことか。魔王が死んだらまだ生きてたやつらは全員助かったってことで、それだけが救いだけどよ」  それはそうと、とゴーマはグラスから顔を上げて言う。 「エマにはまだ話してなかっただろ、ギルバート。お前がどういう経緯で勇者になって、どうやって魔王を倒したのかっていう話してやってくれよ。はじめからな!」 「え、ええ?は、初めからですか!?」  またかいな!とギルバートは呆れ果てる。確かに、エマは普段は遠方の街に仕事にいっていて、ようやく久しぶりに故郷に帰ってこれたというのは知っているけども。それくらい叔父さんから語ってくれておいてもいいのに、と思ってしまう。  つまらない話しかできないのだ。特に、ギルバート自身のことなどは。なんせ長らく、王都のスラム街でドブネズミ同然の仕事をしてきて、成り上がるためだけに剣の腕を修行してきた身の上であったのだから。 「ええ、あたしも直接聞きたいわ!偉大なる勇者様の話!それと、魔王のこともね。魔王の呪いや放ったモンスターは有名であったけど、魔王本人を見たことがある人なんて殆どいなかったもの。みんな、鬼のような恐ろしい外見の大男だって噂していたけど、あくまで想像の話だしねえ。ね、どんなだった?」  魔王の話。それならば、と考える。自分の貧しい時代のことを、いろんな人に言いふらすよりはよほどまともな話題である。フライドポテトをちまちまつまみながら、そうですねえ、と口を開くことにした。 「うーんそうですねえ。魔王に関しては、俺も似たような想像してたんですよ。だって、あれだけの街に呪いの疫病を振りまいて、モンスターを放って、世界征服を目論むような存在でしょ?恐ろしい外見をしてないはずがないって。……そうそう、あんなかんじだと思ってたわけです」 「あ、ちょっとこら!」  壁を指差してやると、慌てたようにジェニーが飛び込んできた。そこに貼られているのは、数年前にジェニーが描いた、魔王の想像図である。何がおかしいって、ジェニーときたらとんだ“画伯”なのだ。鬼や悪魔のような姿をした大男、を描いたつもりが、なんだかタコのような足が大量に生えたコウモリのオバケみたいな有様になってしまっているときている。しかも、無駄にカラフル。これがこういう意味!と後に解説してもらったもののさっぱり理解できなかった。  当時はその前衛的すぎる絵を本気で天才と信じていたらしいジェニーが、真っ赤になって絵を剥がしにいこうとする。その彼女を、ジェニーの絵を酒場に貼り付けた張本人であるゴーマと、その友人の酔っ払い達が数人がかりで止めていた。全員がその時のことを思い出したのだろう、がはははは、と豪快で遠慮のない笑い声が響き渡っていく。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!