転換者

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「あんたなんか産まなければよかった!」と泣きながらいうのは母。 「お前は一族の恥だ!」と怒鳴り散らすのは父。 僕に向かって振り下ろされる拳。僕に向かって蹴ってくる足。         ……いつからだろうか。僕の顔や体を見る度にそんなことをするようになったのは。 僕は末乃(すえの)。転換者なんだ。                                      転換者だと気づいたのは僕が十才の頃だった。体が男から女になったのだ。気づいた僕は親に伝えた。僕は転換者には特別な能力が宿っていることを知っていたし、転換者は神様のような存在に扱われるから兄弟が多くて末っ子になる僕をちゃんと見てくれると思ったからだ。しかし、僕がいるこの村は [転換者=化け物] なんだと昔から言われていた。僕はそんなこと知らなかったんだ。 僕は屋敷の牢屋に入れられ外に出ることができなくなった。 天井は低く、蜘蛛の巣がはっていた唯一の灯りは自分がぎりぎり通れる小さな木でできた格子の外から射し込む日の明かりや満月になったときの月明かりだった。   毎日のように振るわれる暴力。泣こうが吐こうが気絶しようが、死ぬことは許されなかった。毎晩持ってくる残飯を食べさせられて、次の日また暴力を振るわれる。大体がこの繰り返し。僕の親は、「妖怪に食い殺された」とか嘘言って怪しまれないように上手く言っているのだろう。  「もうどうでもいいや」 生きる意味を忘れ、丸一年がたったある日蹴られた痛みで声を抑えながら泣いていると、 「誰かそこにおるのか?」 と老いたおじいさんの声が聞こえた。 初めて僕にかけられる優しい言葉。 僕はまだ生きている返事をすればここから出て自由になれる。そう思った。        必死声を出す。枯れて全然でないけど  「……た、助けて。…ここ、から、出して、ここを出て、自由に、なりたい!」 精一杯叫んだ。  すると後ろから 「なんだぁ、今さら。お前は自由になれるどころかここから出られないんだよ。分かりきってることを今さら口に出すんじゃねぇ!」 父の声。聞かれてしまったのか? いや、僕の言葉だけしか聞こえなかったようだ。 「全く、変なことばっか言いやがって。お前、今夜はメシ無しだ」 そういうと父は出ていってしまった。  出ていくのを見計らったように僕に声をかけてきたおじいさんさんが言う。 「今から斧を持ってきてくるから、もう少しの間我慢して待っててくれないか。」  ここから出してくれる! わかったと呟くとおじいさんは斧を取りに行った。 少し待っているとおじいさんは本当に来てくれて、格子を壊しはじめだ。そして完全に壊したのを確認すると手を差し出して   「さぁ、おいで。ここから出るよ」 といってくれた。僕はぼろぼろになった体を頑張って伸ばして手を取った。 月明かりがまぶしい夜。 僕ははじめて美しい夜美しい心を持った人間に出会った。  
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