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2,初恋日記④
「佐野」
放課後、結は佐野を呼び止めた。驚いて振り返る佐野に駐輪場まで話そうと声を掛ける。
何かを察した佐野が、目を伏せてから了承した。
「先帰って」
佐野は側に居た友達に断り、下足室で結が履き替えるのを待った。
歩き出した二人はもうその話を知っている。
「金曜日、倉木先生に呼ばれた日。
間違って先生のとこにあった、
…佐野の手紙、貰って、読んだの」
表情一つ変えず、佐野は前を向いたままゆっくり歩き続けた。結はなんて言っていいのか、言おうとしていた言葉も飲み込んで消えてしまい、躊躇った。
「そっか」
ただそう言って、歩き進めた二人はあっという間に駐輪場に着いた。
「いや、もう頼むわ、忘れて。
おまえが誰を好きかは知らないけど、俺はそれ、応援するから。
……まぁ、それも迷惑かもしれないけど」
振り返った佐野が苦しそうに微笑んだ。
そんなことない。嫌ってない。迷惑なんかじゃない。ごめん。無神経でごめん。
結は全力で首を横に振った。
「不細工だな」
佐野は吹き出すように言って、愛用の黒い自転車に跨った。それから、また明日な、と手を振って走って行ってしまった。
「先生に、見られたくなかった」
あの日、結の言葉に倉木は思わず黙ってしまった。その意味を聞き返す気にはならなかった。
「ごめん、関係ないよね、先生には」
察するように立ち上がった結はバッグと佐野のラブレターを持って頭を下げた。
「ありがとうございました。
それじゃ」
あっという間に出て行った。
声なんて掛けられなかった。
さっきまでここに居た中原という生徒を一瞬だとしても女性に見たのを自覚して、唖然とした。
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