2,初恋日記②

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2,初恋日記②

中原(なかはら)(ゆい)さん」 倉木がこの学校に転任してきてから2ヶ月。しぶとく暑かった季節が去り、やっと秋が訪れようとしていた。授業の終わりに突然名前を呼ばれ、緊張で顔が強張るのを隠す術を探したが間に合わない。 「ぁ、はい」 「ちょっとお願いがあって。 放課後、時間ありますか?」 頭をフル回転させる。バイトは…無い、休みのはず。友達と…約束して無い。莉奈、今日デートだし。 「あ、ごめん。もし時間なかったら…」 「あります!」 時間なんて、有り余ってるから。作るから。 「良かった、じゃあ、放課後社会科準備室に来てくれる?」 「…はい」 ざわざわいってるクラスの中で一人俯く。困惑を遥かに通り過ぎ、公開処刑されたくらいの恥ずかしさと動揺に泣き出したくなるほどだ。 「はい、じゃあ終わります。 また来週」 クラス委員が声を掛けて、起立、礼する。 倉木が教室から出て行くと、駆け寄った莉奈が結の背中をドンと押した。 「なに、あれ」 「わからん」 「急に?」 「急に。私なんかした?」 「いや、そういうんじゃないでしょ。 どっちかっていうと浮ついていい方じゃない?」 「恥ずかしくて吐きそうだったよ」 「タコみたいになってたもんね」 可笑しそうにケラケラ笑う莉奈が他人事過ぎて小憎たらしい。 「ま、がんばりな」 何を、どう頑張るんだよ…。 その後の授業は何も頭に入らなかった。ただ時計ばかり見上げて、放課後が来るのを怯えながら待っていた。ドキドキが止まらなかった。 社会科準備室には入ったことがない。理科準備室なら授業の準備や実験用具の貸し出しなど生徒にも開かれているが、ここはタバコ臭い世界史の花田や、髭のやたら濃い他クラスを受け持つ日本史の三宅が居る場所という印象しかなく、陰気でどこか近づくのも嫌な場所だった。 扉をノックして返事を待つ。 「どうぞ」 扉を開いて学年と名前を名乗ると、奥から倉木が顔を出した。 「ありがとう、ごめんな」 「…いえ」 「ま、入って」 「失礼します」 部屋に入ると中央にまだ火のついていないストーブがあり、その周りをフェンスと、三人掛けくらいのソファが二つ囲んでいた。 タバコの吸い殻が溜まってる机と、整理整頓が出来ている机、それから、キャラクターの置物や資料を留めるクリップがやたら可愛いグッズの多い机。 「実はね…」 そう言いながらその机の引き出しの鍵を開け、中にある資料の一番下から何かを抜き出した。 「せんせの机なんだ、そこ」 思わず口にすると、え?と不思議がって、自席を見渡してから、あぁ、と頷いた。 「生徒にもらったものを優先的に使ってたら、なんかごちゃついてきて」 そう言って笑うと、おいでと手招きし、ソファへ座るように促した。 「これね。こないだの授業のプリントに挟まってたんだけど」 差し出されてギョッとした。 自分宛に書かれたラブレターだった。
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