2,初恋日記③

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2,初恋日記③

中原へ 中原が好きです。付き合ってほしいです。 俺のこと嫌ってる?迷惑だったらごめん。 これ破っていいから。 潤也(じゅんや) それは、白い紙に綴られた三行の想い。たった三行にその全部が込もっていた。 社会科準備室のソファ二脚にそれぞれが腰掛け、結は真剣な顔で倉木から手渡されたラブレターを見つめた。恐らく授業中書いていたそれを、前に送るプリントと共に間違えて重ねてしまったのではないかと倉木は説明した。 差出人の佐野(さの)潤也(じゅんや)は中学からの同級生で、高校も二年間同じクラスだ。おはようの挨拶から当番のやり取り、ノートの貸し借り、帰り道に会えばバイバイもする。だけど最近、結は話しかけられるのを疎ましく思う時があった。特に廊下や校庭で倉木の側を通るときなどは一人で居たかった。わざと冷たくしたこともあった。だって向こうがそんなふうに思っていたなんて、これまで僅かにも感じたことはなかった。ただの男子でしかなかった。 佐野を傷つけたんだろうか。自分の言動が佐野の気持ちを踏みつけていたのだろうか。どうしよう……私……。 「中原?…中原?」 何度も呼ばれ、思い詰めていたことに気がついた。ハッとして、緊張で強張っていた顔が解ける。眉間に寄せた皺、食いしばった歯、尖らせた唇が緩む。緩んだ途端、涙が溢れた。 「……中原」 びっくりした倉木がそれ以上何も言えなくなるのを感じた。この人にも気を遣わせてるんだなと、今のこの状況が重たくなる。 「なんか、思い返してて。 私、大丈夫だったかな。佐野にちゃんと、優しくしてたのかな。知らなくて…。たぶん私が嫌ってると思わせてたんだよね。 どうしよう、せんせ」 何も言ってくれない。倉木は驚いた顔をして、しばらくして眉を下げた。 「中原、おまえ、いいやつだな」 意味が分からないと顔をしかめる結に、倉木は笑った。 「ラブレター読んで、そんなふうに思うやつ、少なくとも俺は知らないよ」 倉木は長い腕を伸ばし、結の頭に手を置いた。 「違うよ。 だって、私わざとだもん。 わざと佐野に、冷たくした」 倉木はその手を下げて、結の目を見つめた。 「何か、理由があるの?」 一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇った。 まだ、それを恋とは言えないと知っている。こんな未熟な感情を言葉にするのは難しい。 「先生に、見られたくなかった」 それしか言えなかった。 理由はただ、それだけだった。
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