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4,紀子①
「で、茅野さん、さっきの話!」
雑貨店アルーのバックヤード兼事務所。同じシフトに入っていたパートの紀子が仕事中にたまたま上がった話を蒸し返した。
「んー、さっきって?」
分かっていて聞き返す。さして面白い話題など持っていない。ミーハーで恋バナ好きなまだ若い彼女の食い付きに若干引いていた。
「元カレ!高校の先生って!!」
「うん」
「マジ?」
「マジ」
買ってきたコーヒーをゴクッと飲んだ。今日は熱くて喉が渇いていた。
「え、いつ?」
「高2から19の夏まで」
「やばー!!」
一体何がヤバいんだ。高校教師と教え子だから?そんなのみんな言わないだけでちょくちょくいる。卒業したらしれっと街中歩いてるだろ。
結はイライラする感情を抑え、わざともう一つ暴露した。
「その間に医者ともちょくちょく会ってて」
「は?医者!?え、浮気ってこと?」
やっぱり。食い付くと思った。
「そこまでいかないけど、暇なときにデートするだけ」
「医者とデート…」
「そのときはすぐ会わなくなったけど、何年か前に再会してしばらくその人と付き合ってた」
「は?え?結婚してからってこと!?」
「うん」
あぁ、もう少しかな。
何か言いたげな感じ。
釣り上がってくれるといいけど。
「ね。明日暇!?」
キタ。
紀子の誘いににっこり微笑んだ。
「ランチでもする?」
「続き聞きたい!それに!話したいことある」
そうだよね、あなたは話したいよね。
聞いてあげるよ。
「わかった。じゃあ、明日ね」
紀子の言動にはいつも平常心ではいられなかった。あからさますぎて。
この苛立ちを断つには暴露しかないとも思っていた。うまくやれば、黙らせることができる。
願わくば、いっそ消えてほしかったのだ。
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