4,紀子②

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4,紀子②

待ち合わせたカフェでランチを食べながら、紀子は結の初恋話を聞いていた。結は淡々と話すけど、高校の先生との初恋なんて、想像しただけでワクワクするし、その間に医者と出会いデートまでしていたと言い出したと思ったら実は何年か前に再会して交際していたと聞かされ、驚きで興奮しているのを自覚していた。 そんな紀子を一人冷静に見つめながら、聞かれるがままに過去の恋愛を打ち明けつつ、今か今かと結は静かにそのタイミングを待っていた。 「すごいなぁ、いいなぁ」 「よくないよ、別に」 羨ましくもなんともないだろう話にやたら感心する紀子にいい加減本音を漏らしそうだった。 イラつく。 「なんでその医者と別れたの?」 「家庭を壊そうとしたから」 「え、離婚とか?」 「そう。あっちがね」 「バレたってこと?」 「違う。バラすって。打ち明けて奥さんと別れるって言い出したの」 「わ、修羅場」 「そんなことは望んでないから。迷惑でしかないし。私から切り出してすぐ別れた」 そう。元担当医だった(りょう)とは結婚3年目の頃に偶然再会し、食事に誘われすぐに付き合い始めた。その頃はまだ相手に心ごと捕われ酔っていたから、相手のこともいつの間にか夢中にさせていたのかもしれない。 さすがに妻と別れると言い出したとき全てが冷めてしまい、全く好きではなくなった。そんな思い詰めた話は求めてないし、本気で愛して欲しいと頼んだ覚えなど無いのだから。 「意外、なんか」 サラダを突きながら紀子が結を見つめている。 「そんなことしないと思ってた?」 「うん…そういうの反対派かと思ってた」 全然。全く。なんなら開き直ってる。 「他人のことも無関心だし、だから知ってる誰かがそういうのやっててもなんにも思わない。 自分の家庭は守りたいけど、何やろうと別にバレなければいいと思ってる最低な人間だよ、私なんか」 本心だった。 医者と別れた後は無理矢理でも封印していた本性が、今の彼とのことが始まって一瞬で暴かれ、彼によって解き放たれた。最低でどうしようもない自分の汚い姿だ。見られるのも見せつけるのも汚くて醜い、真っ黒な私のすべて。 「あの、さ。誰にも言わないでね」 ハッとした。ついにきた。紀子の声に目に力が入るのを止められなかった。 これが聞きたくて、私は今日時間を作ったのだ。 「うん。なに?」 努めて冷静に。 コーヒーに口を付けながら目を逸らす。 「あのね、私」 いいよ。聞いてあげる。それからもう起き上がれないほど叩きのめしてあげる。 「オーナーと寝た」
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