もう一度?

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 朝、目が覚めた時、映子はホッとする。なぜなら慌てて身支度をしつつ、キッチンへ立つことがないからだ。すなわち、誰かのために動き回らなくてよいということである。  離婚して3年目になる。夜更かしをし、だらしなく何かをつまんでしまっても、電気を付けっぱなしにしてうっかり眠りについても、その代償を心配する必要はない。  「あたし、何をしながら寝たのかしら」  パソコンの動画は流しっぱなし、飲みかけのペットボトルが温くなっていた。  寝る前にアイクリームを塗ろうと思っていたのに、と少し後悔する程度で、後はぼさぼさ頭のままのそりと動き出す。洗面所でうがいをし、トイレに行くのは昔からの習慣だ。  なんだか部屋が乾燥している。だからタオルケットを洗濯しようと思った。シングルサイズのそれは、夜までに十分乾くだろう。洗濯機を回してから、自分のために湯を沸かす。ティーパックのハーブティーを淹れて、やっとカーテンを開けた。  今日は休日だから何も急ぐ必要はない。テレビはうるさいから観ないし、若者のようにスマホをむだに弄ることもなかった。  「のんびり、いいわぁ」  心の底からの言葉が口に出た。  端から見れば、強がって痛々しい離婚アラフォー女の寂しい朝かもしれない。けれど映子にとってはなんとも清々しく気楽なのだ。    映子は今年の夏で39歳になる。  結婚したのは33歳、7月の映子の誕生日だった。恋愛期間は1年と少し、それから3年間の婚姻生活を送り、そして終止符を打った。幸か不幸か子どもはいない。いなかったからこそ、あっさりと独身に戻ることができた。  「子ども」、それが離婚の原因だった。  映子が35歳になった時、本気で子どもを考え始めたのは元の夫である健一だった。どうやら母親に急かされたようで、映子はそれがどうにも気にくわなくて、彼との話し合いから逃げていた。  しかし健一の強い希望により、2016年12月いっぱいで映子は仕事を辞めることとなった。いわゆる「妊活」をするためだ。映子は日勤のみの看護師をしていた。産休も復帰も問題ない職業だ。とりあえず退職することで折り合いは付けたつもりだった。    
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