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子どもが欲しいと言いつつ、ある日健一は車のパンフレットをごそっと持ち帰ってきた。嬉しそうにそれを眺めながら「新しい車欲しいな」とこぼした。
洗い物をしていた映子の手が止まった。
「けんちゃんはどんな車がいいの?」
できるだけ冷静にそう問うてみた。
「SUVかな」
ガチャガチャと食器を鳴らし、映子は返事もせずすすぎ始めた。健一は返事がないことすら気にしていない。
「だめだ」
映子が家にいるようになってから、健一はあまり家事を手伝わなくなっていた。ダラダラしている夫に苛つくことが増えていた。お揃いの茶碗を洗いかごに並べならが、思わず目が潤む。子どもも車も欲しくなったら手に入れるものなのだろうか。
ふと夜中に一人で赤子をあやしている自分の後ろ姿がみえた。
次の日映子は一人で産婦人科へ出かけた。そして「ピル」の処方を希望したのだった。健一は子どもが1歳になったら当たり前のように映子が働き出すと、そして保育園のことも任せっきりにして、親の前では「イクメン」を装うだろう。
二人で生きていくならまだ続けられたかもしれない。そこに子どもができたら・・・。二人の子どもなのに映子の所有物とされ、映子が一人で必死に育てなければならない予感がする。
「男は自分の子どもを抱いて初めて、親の自覚がでるものよ」と映子の母は言ったが、とてもそうとは思えないと身震いした。
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