もう一度?

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 健一を見送った後、映子はのんびりと家事を始めた。  この生活に少し慣れてきているが、目が覚める度に「やはり戻っていない」とガッカリする。    産科よりやはりメンタルクリニックへ受診した方がよさそうだ。  でもそれを秘密にするのもややこしい。  美穂から昨日の写真が、送られてきた。健一と匠平と映子が3人でソファーに並んで笑顔のそれは、知らない人が目にすると「幸せな家族」に見えるだろう。  健一の笑顔を見つめる。それほど許せないことがあっただろうか。彼は遊び人ではないし、自分だけの趣味にこだわったりもせず、恋愛の続きをしているような時もあった。  ただ映子が「もう少し二人で過ごしたい」という気持ちと、妊娠出産を急かされる不快感に苛まれていたのだろう。  昨日、匠平と手を繋ぎ感じた。「なんて温かく愛おしい存在なのだろう」と。それは甥っ子だから、というのもあるかもしれない。  離婚してからの日々で小さきエネルギーに触れることがなかった。  美穂はこれから普通より3倍、いや4倍は大変な妊婦生活を送るだろう。  自分も高齢出産の域に入る。これはもう、真剣に考えていかなければならないことだ。  畳んだ物をクローゼットにしまっている時、ふと懐かしいものが目についた。それは2013年の春に健一がチューハイで濡れたブラウスを拭いてくれた、ハンカチだった。  映子が丁寧に洗濯をし、きっちりとアイロンをかけ、まるで贈り物のように袋に入れて渡した物だ。  「けんちゃん、これ使ってなかったんだ」  その袋と一緒に手紙も添えた。映子は恐る恐る、自分が書いた昔の手紙を開いた。    『仲村さんへ     先日はありがとうございました。     私の服も、おかげさまで綺麗になりました。     お気持ち、感謝しています。                    深川 映子』  健一はハンカチと手紙を大切に保管していたのである。  これを渡すために待ち合わせしたこと、それからとんとん拍子で恋愛が進み、結婚にまで至ったことが強く思い起こされる。  ふと棚に目線を移すと結婚写真が飾れている。  そうだ、このフォトフレームは健一が買ってきたんだ。ウェッジウッドのブルーが綺麗で、映子はとても嬉しかった。  2020年、これは当然無い。写真はほぼ片付けてしまった。このフォトフレームは確か実家にある。母がもったいないと言い、持っていったのだ。  今度はフォトフレームを手にした。  どう見たって、幸せな二人ではないか。懐かしく苦い思い出になってしまったものだが、映子は初めて離婚を後悔した。
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