24:青年の正体

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24:青年の正体

 レイの背中に乗り込んだエレナはテネブリスに侵入してきた謎のグリフォンを追った。しかし相手の方が飛行速度が勝っていたため、エレナとレイはグリフォンを見失ってしまう。仕方なく地上を凝視しつつ飛翔していれば── 「きゅ!」  ルーがエレナの宝石から顔を出した。エレナは慌ててルーを片手の平に乗せて自分の胸元に忍ばせる。するとルーの額の宝石が輝き、とある方向を示した。その先には確かゴブリンの村があったはずだ。 「そこにグリフォンがいるんだね?」 「きゅう!」 「OK。ありがとうルー! レイ、分かった?」 「ぎゃ!」  レイが行先の狙いを定めて一直線に飛ぶ。エレナは振り落とされないように両腕でしっかりレイにしがみ付いた。そしてレイが再度鳴く。どうやらグリフォンの姿が見えたようだ。上から地上を覗けば、ゴブリンの村周辺の平原でゴブリン達が円を描いている。その中心にはグリフォンとそれに乗っていた男、そして──魔王が見えた。 「パパ!? どうして……、」  エレナはすぐに着陸したレイから飛び下りると、ルーと共に騒動の中心へ走る。ゴブリン達の間を縫って、大好きな父に叫んだ。 「──パパ!」 「!? エレナ、どうしてここに」 「えっ、」  エレナは思わず硬直してしまう。何故ならグリフォンに乗っていたローブ男が剣を構えていたから。しかも魔王の腕から血が流れているではないか。十中八九、彼が魔王を切りつけたのだろう。エレナはすぐに魔王の腕を掴む。 「パパ、う、腕! す、すすすぐ治すから!」 「いや、ただの切り傷だ。この程度であれば(わたし)の治癒力だけですぐに治る。無駄な魔力をお前に使わせたくない。それよりもだ」 「あ……」  エレナはハッとする。傍にいたアスモデウスが牙を剥き、皮膚に鱗が浮き上がっていた。身体もどんどん巨大化していく。彼は目の前で魔王が切りつけられた事で激昂していた。上半身のみを竜化させた彼はローブ男に襲い掛かっていく。ローブ男はそんなアスモデウスに怯えず、立ち向かった。しかし彼の剣の固さはアスモデウスの身体能力に到底敵わない。アスモデウスの腕力で剣が砕けたのだ。 「っ、ちっ、」  男は砕けた剣をすぐに捨て、懐からナイフを取り出す。巨大化したアスモデウスの懐に入るなり、そのナイフを心臓に突き刺そうとした。しかしその時だ。魔王の身体から影が伸び、縄のようにローブ男とアスモデウスを拘束する。ちなみにこの自由自在に伸びる影は魔王の闇魔法の一つである。 「──くっ、ここまでか……」  魔王がローブ男に近づき、そのフードを外した。茶髪、褐色肌の青年がそこにはいた。長い前髪でその瞳は隠れており、悔しそうに噛みしめられた唇だけが認識できる。エレナはそんな青年の姿を見て、思わず大きな声を上げた。 「──ノーム・ブルー・バレンティア殿下!? どうしてここに、」 「!? え、」  エレナの声にノームと呼ばれた青年もポカンとする。そうしてエレナの方へ顔を向けた。 「っ、貴女は、白髪の聖女の……」 「元ですよ元! お久しぶりです」 「エレナ、知り合いか」  魔王がこてんと首を傾げる。エレナは未だに暴れようと足掻くアスモデウスを横目に頷いた。 「えっと、知り合いというか……隣国の王太子だよ。シュトラール王国っていう国のね。スペランサ王国と交流があって、その親交パーティでお会いしたことがあるの。ほら、私一応ウィン王子の婚約者だったから」 「そうか。人間の王太子か……」  魔王は考える時の癖で顎に手を当てる。エレナはノームと魔王を交互に見ると、意を決して拳を握り締めた。 「──パパ、彼を見逃して!」 「!」 「お願い! 彼を殺さないで。人質とかもなし! 彼には色々とお話を聞きたいし、彼がテネブリスから無事にシュトラールへ帰ったという事実は今後のテネブリスに必要だと思うの。我儘だってことは分かってる。でも、彼は……」 「こんのっ、お馬鹿プリンセス! そんなこと出来るわけないでしょ!」  ようやく正気に戻ったアスモデウスが竜化を解き、頭を抱えながらこちらに歩いてくる。アスモデウスはノームを鋭く睨みつけた。 「種は憎まないとは言ったけれど、この野郎は陛下を傷つけた! せめてその代償を支払ってもらうわよ人間! ……陛下、アムとマモンにも連絡して相談すべきです」 「ま、待ってよアス! だ、代償なら私が払うから!」  エレナはノームが持っていたナイフを手に取る。しかし魔王が素早くそれを止めた。エレナが己の腕を傷つけようとしたことを察したらしい。 「エレナ、どうしてお前はそこまでこの人間を救いたいのだ。お前の考えを言ってみろ」 「そ、それは……彼が、魔族の国に行って無事に帰れたら、テネブリスに敵意はないって意思表示になるかなって……あと、彼には色々と情報を提供してもらえるかも、だし……」  必死に考えながら答える。エレナは我ながら子供のような理屈だと分かってはいたが、咄嗟に思いついたのがそれしかなかった。アスモデウスが何か言いたそうにしていたが、魔王はそれを手で制す。 「そうか。お前が考えた上で導き出した答えならば、お前を信じよう」 「!」 「へ、陛下!」 「ただし今回だけだ。次に攻撃を仕掛けてきたら容赦はしないぞ。ノーム・ブルー・バレンティア」 「……っ、!?」  途端に、ノームを拘束する魔王の影が消えた。アスモデウスが必死に魔王を説得するが、魔王は黙ってゴブリンの村の方へ歩いていく。エレナはそんな魔王に胸が温かくなったが、この場に留まっていては周囲のゴブリン達の視線が痛いということに気づく。 「ノーム殿下、ひとまず二人で話しませんか? 少し離れたあそこの岩場にでも……」 「……分かった。恩に着る」
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