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37:親交パーティ
ノームが土の勇者と認められてから、彼はテネブリスにてエレナと共に魔法の修行に励むようになっていた。ちなみにシュトラール国王には自分が勇者であることをまだ話していないらしい。髪の色も変わっていないこともあって、信じてもらえる自信がないのだという。故に、こうして修行によって実力をつけてから話すつもりでいるようだ。
「──咲け!」
ノームが叫ぶ。ノームの魔力を流された魔花が勢いよく花開く。その大きさはエレナの手の平サイズといったところか。
「むぅ。まだエレナのように大きな花は咲かないか」
「そりゃまだ魔法使えるようになって一カ月でしょ? そんなにすぐ成長したら私の立場がないよ。それに私、ドリアードさん曰く魔力量は常人の魔族の二倍はあるらしいし」
「ほぉ。そもそも気になっていたのだが、エレナは一体誰の加護を受けているのだ?」
「さぁ。それは私も分からない。治癒魔法って普通に加護を受けても人間が創造できる魔力量じゃ使えないみたいなのよね」
「なんだそれ」
ノームが不思議そうに首を傾げる。これに関してはエレナ自身が一番気になっている事だ。
エレナは今日のノルマである十本の魔花の苗を咲かせ終わると、布で汗を拭いた。ノームはまだ修行を始めて一カ月であるのでノルマは三本。彼もそれをたった今終わらせると地面に横たわり、大きく伸びをする。
「はぁ、はぁ……。エレナが十本魔花を咲かせている間に余はたったの三本だけか……」
「焦らない方がいいって。それよりノーム、ドリアードさんに色々と土魔法を教えてもらってるんでしょ? どんなことが出来るようになったの? 見せて見せて!」
ノームは半身を起こすと、少しだけ顔を逸らした。エレナは「土魔法」という未知の可能性にキラキラ目を輝かせる。ノームはそんな彼女の輝きに耐え切れず、仕方なく地面に腕を伸ばした。
「──我が僕よ」
ノームがそう唱えるなり、彼の周りにボコッボコッと土が盛り上がる。球体に突出した土が自らの意思で転がり、次第に手足が生えた。思ったよりも丸っぽい土人形。ノームの土魔法はこれを意のままに動かせるとか。エレナはそんなゴーレム達に目の輝きが増した。
「嘘!? なにこれなにこれ!? すっごく可愛い!! コロコロしてる~!! おいで!!」
エレナはゴーレムに手招きをする。するとその内の一人が「え? 僕?」という風な仕草をすると、トテトテとエレナの前に来た。エレナはそんな彼(彼女?)を膝の上に乗せて頭を撫でる。
「ふふふ、歩く姿も座る姿も可愛い」
「よ、余としてはそんな事を言われるのは心外だ! 本当はもっとこう、大きくて凛々しくて逞しい騎士の鎧を着た……」
「えー、これでいいよ。私は気にいっちゃった。ね? ゴーレムさん!」
エレナは小さなゴーレムを抱きしめた。ゴーレムはエレナを母親と認識したのか、エレナの胸に抱き付く。ノームは慌ててそんなゴーレムをエレナから取り上げた。
「ちょっとノーム! 急にどうしたの!? もうちょっと貸してよ」
「だ、駄目だ! こ、このスケベゴーレムは駄目だ! もうエレナに近づかせるか! 解除!」
「あー! なんでゴーレムさんをもう土に戻すのよ!」
エレナとノームがそんなやりとりをしていると、ノームの相棒であるグリフォン──レガンがノームに身体をすり寄せた。もうそろそろ帰るぞ、という意味らしい。ノームは重々しいため息を吐く。
「もうそんな時間か。今は特に城に帰りたくないな」
「何かあるの?」
「今度、シュトラールとスペランサで親交パーティがあるんだ。しかも余はもう十六になるからな。異性のパートナーとの同伴が求められる。落ちこぼれの余のパートナーになりたい女性もいない故、サラマンダーに色々言われるのさ。どうにか貴族の娘を見繕って形だけでも参加しなければならないが」
「あぁ、そういえばそんな時期だね。ふぅーん、パートナーか……」
エレナはぼんやりと想像した。ノームがどこの誰かとも分からない女性とダンスを踊ったり、腕を組んだりしている姿を。持っていた布をぎゅっと握りしめる。どういうわけか胸がチクリチクリと痛んだ。「それは嫌だ」と心が叫んでいる。その場がしんと静かになった。
「……。……、正直、余はエレナ以外とは踊る気にもなれないんだがな」
「っ! え……」
エレナはすぐに顔を上げる。見上げたノームの顔は逸らされて見えない。しかしその頬と耳に赤みがさしているのは分かった。思わずエレナの頬にも熱が宿る。
「……、ま、まぁ。無理な話だよな! ウィン様やレイナ様も参加するし、お前はスペランサに罪人として認識されているし、そもそもお前を嫌な気持ちにさせてしまうしな! ははは、余としたことが余計な事を言ってしまった! で、では、もう余は帰──」
「パパにお願いしてみる」
「えっ」
ノームの身体が硬直する。エレナはそっと立ち上がると、真っ赤な顔でノームを見た。
「髪の色とかを変えて変装すれば問題ないと思う。パパの転移魔法の魔法陣を持たせてもらえれば、何かあったらすぐにテネブリスに逃げることができるし。……でもノームに迷惑かけるよね」
「め、迷惑なわけがないだろう! だがエレナはいいのか? ウィン様は……」
「それは大丈夫。私も彼もただ婚約者であっただけでお互い恋愛感情はなかったから。そもそも私、彼に殺されそうになったしね。断頭台のことを思い出すかもしれないけど、今の私にはパパや皆がいるからトラウマってほどじゃないし、」
エレナは自分がやけに早口であることに気づいた。どうして自分はこんなに必死に親交パーティに参加しようとしているのか。万が一エレナがエレナであるとばれてしまった時、パートナーのノームの立場はどうなる? これは自分の我儘だ。エレナがそう自己嫌悪していると、ノームがエレナの手を握った。
「──じゃあ親交パーティの、余のパートナーになってくれるか? エレナ」
「え、あ、で、でも、もし私がエレナだってばれたら、ノームの立場が……」
「そこは大丈夫だ。余には一人だけ優秀な従者がいるからな。何とかしてくれるだろう。……なにより、余もお前と踊りたい。お前以外は嫌なんだ」
「!」
ノームがエレナの手の甲にキスを落とす。そうして嬉しそうにはにかむと「返事を待っている」とレガンに飛び乗った。去っていくノームとレガンを見守ったエレナはノームの唇が触れた己の手の甲に悶えるしかなかった。
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