序章 雲鶴

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「え……えええええぇぇっ!!?」  俺の悲鳴ともとれる叫び声を、女性は眉もしかめずに聞いた。そして……少し悲しそうに眉を下げた。 「私のことが、お嫌いですか?」 「き、き、嫌いとかじゃなくて……!」  しどろもどろになって、言葉が出ないでいると…… 「なんだなんだ。はっきりしねぇ野郎だな!」 「うちの姫の何が気に入らねえってんだ!」 「(かしら)、本当にこんなのでいいんですかい?」  何やら、ドスドスと荒々しい足音を立てて、続々と人が集まってきた。今いる屋形の屋根に、まだまだたくさん階下から人が集まってくる。  上ってくるのはどれもこれも筋肉隆々として、痣や傷跡が満載の、強面の男たちばかり。さっきの侍なんて、むしろスマートな方だった。そのごつごつした腕にひょいと摘ままれれば、俺なんてぷちっと潰してしまいそうな男たちが……集まって、女性と俺を囲んでいる。  俺の返答を、凄みながら待っている。もはや脅しのような空気で。  女性の方はと言うと……男たちの囃し立てる声をくすくす笑いながら聞き流している。どうなってるんだ……!?  顔をひくかせるばかりで声も出せずにいる俺に、再びあの冷たい感触が襲ってきた。 「おい。姫の仰せだぞ。返答せんか」 「へ、へ、返答……ですか?」  さっきの侍がいつの間にか俺の横に移動して、また刀を突き付けている。”返答”なんて言葉を遣ってはいるが、返す言葉は一つしか許されていない……!  だがしかし……これは、そのまま流されては絶対にもっともっと大変なことになる……! 「あ、あの……お気持ちはありがたいですが……」 「ああぁん!?」  俺の言葉に、女性よりも周りの男たちの方が声を荒らげた。 「だ、だって! あ、会ったばっかりだし! な、名前も知らないし!」  これだけ言うのに、どれだけ勇気を振り絞ったかわからない……。  まだ震えている俺に、男たちの中でも一番の巨漢が近づいてきて……背中をバンバン叩いた。 「がははは! 聞いたか、みんな。こいつ、俺たちのお頭に向って、名を名乗れだとよ! 大した度胸だ!」 「……殺す」  侍が刀を振り上げた。
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