第二話:朝食

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第二話:朝食

 刑務所の朝食は朝7時だ。その10分前に各部屋に号令が下り、そして囚人達は列を作って食堂へと向かっていく。今日もいつものように刑務官が勘助達の部屋に朝食の号令をかけた。呼ばれた面々は列を作ったが、何故か今日も勘助と兼続は並んでしまったのだった。  並んだ瞬間、二人は今日もいつものようにガンを付け合いを始めた。二人とも睨み合ったまま動かないので刑務官が「18号、19号!なにをしている!早く歩け!」と注意した。  すると苛立っていた勘助が「コラァ!いつまでも人を番号で呼びやがって!何が18号だ!俺はドラゴンボールじゃねえ!」とブチ切れてしまった。そしてそのまま刑務官に勘助が殴りかかろうとした瞬間だった。危険を察知した兼続が後ろから両腕で勘助の脇下から抱え込み取り押さえたのだ。 「なにすんだコラー!」 と勘助は野良犬のように暴れた。兼続は勘助を「ガキみてえに暴れんじゃねえ!刑務官さんが迷惑してるだろうが!」と怒鳴りつけ、暴れる勘助を押さえつけようとする。二人の体が激しく擦れ合う。兼続の下半身に「なめんじゃねえぞコラ!」と叫ぶ勘助の硬くて小さい尻がぶち当たってくる。勘助も尻に入り込んでくる兼続のコリコリしたものを感じた。勘助は「俺に触るんじゃねえ!」と叫んだが、おかしな事にその途端急に大人しくなってしまったのである。  兼続に抱え込まれまま勘助はしばらく動かなかったが、やがて兼続の腕を振りはなし列に並んで歩き出した。歩きながら二人はさっきの取っ組み合いを思い出して顔を赤らめる。なぜならあの時互いの下半身が少し硬くなってしまっていたからだ。  食堂に入り、朝食を受け取ると囚人達は仲のいい連中と席に座っていった。勘助と兼続の部屋の囚人は日本最大の暴力団室町会所属の者が殆どだ。共によそ者である勘助と兼続は今日も隅っこの席で向かい合わせに座ることになった。 「織田の小倅が足利のおじきを狙うてなぁ、あのガキいっぺんカチコミ入れたるわ!」 「おじきもしっかりせんからあんなガキが調子に乗るんじゃ!」  近くで現在のヤクザ情勢の話が聞こえる中向かい合わせの勘助と兼続はむっつりと黙って飯を食っている。黙ってはいるものの、お互い獣のような目でガンをつけあって、もう熱い火花が飛び散りそうだ。いつもは二人ともそのまま無言で朝食を食べるのだが今日は珍しく勘助の方がが沈黙を破った。 「このガキ、さっきはよくも止めてくれたな。いいカッコして早くシャバに出てえってか!出るためだったら刑務官のケツの穴でも舐めるってかぁ!」 「ふっ、なんとでも言えよ。俺はテメエみてえなチンピラとは違うんだよ!俺はテメエと違って正式な組員だからよ。早く帰ってみんなを安心させてえだろうが。組のみんながいなきゃお前なんか今すぐぶっ殺してやるぜ!」 「あんだぁ!人をチンピラみてえに言いやがって!テメエがあんなとこで邪魔しなきゃ俺だって組員どころか幹部クラスに昇進できたはずなんだ!それがテメエのせいで全部パーだ!あれから毎晩あの時の夢にうなされどうしだ!テメエに邪魔された挙句に、逆に刺されちまったあの場面がいつも出てきて俺は毎晩悔しさにのたうち回ってるんだ!」  兼続はハッとして勘助を見た。 「なんだあコラ!人の顔ジロジロみやがって!」 「お前も毎晩見るんだな。あの時の夢を。俺も見るぜ。そしてお前に刺された傷がやたら疼くんだ。毎晩痛くて妙に熱くていやな気持ちになるぜ!お前をヤッちまえばそんなのともさよならなんだろうな!」  そういうと兼続は勘助を睨んだ。すると勘助も顎を突き出して兼続にガンをつけて言った。 「あん、それで毎朝俺の寝込みを襲おうとしてたんだな!いつも壁際に寝てるのに朝起きると必ずお前と部屋の真ん中で向かい合わせに起きるからおかしいと思っていたぜ!この卑怯モンが!タイマンするなら堂々とかかって来いや!」 「あんだとコラ!卑怯モンはテメエじゃねえか!親分を暗殺しようとしたヤツがよく言うぜ!今言ったこと全部お前がヤってんじゃねえか?自分の罪を人になすりつけんなや!俺が寝た途端後ろから襲おうとして、俺が寝返り打ったらびびってヤルのをやめたんだろうが!ああん!ハッキリ言えやコラァー!」  そしてあんだとコラーッ!ぶっ殺してやる!と本日二回目の乱闘が始まった。二人の乱闘は刑務官と囚人達を巻き込んでの大騒動となった。そんな中二人の喧嘩を奥で見ていた一人の囚人が腰をくねらせながら呟いた。 「う〜ん、若い子のケンカっていつ見てもシビれるわぁ〜!でもあの子達じつは惚れあってるんじゃないかしら……。ケンカするほどなんたらってよく言うしねえ〜!」
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