背が高くて優しくて頭が良くてお金持ちで、かっこよくて包容力のある男

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背が高くて優しくて頭が良くてお金持ちで、かっこよくて包容力のある男

「…何の騒ぎだ?」  帰国して一年三ヶ月。  久しぶりに実家に帰ると、リビングから悲痛な声が聞こえて来た。  俺が顔をのぞかせると。 「あ。」  (しき)に足首に包帯を巻かれてる、桜花の制服。 「えっと…何だっけ。知花(ちはな)んとこの…」  俺が指をさして問いかけると。 「…(うらら)です。」  痛みに顔を歪めながらも、長い髪の毛を後ろに追いやりながら、が答えた。 「知り合い?」  織が、俺と麗を交互に見て言った。 「知花の妹だよ。」 「まあ…じゃ、大変。」 「何が。」 「お華するんでしょ?足首がこれじゃ、正座ができないわ。」 「どうしたんだ?」 「公園で、海が抱きついて…」 「…ったく、海の女好きは誰に似たんだ?」  俺は海を抱えて、額をぶつける。 「あたし、車だすから。」 「ああ、いいよ。俺が送る。」 「いいわよ、陸はゆっくりしてて。久しぶりだし。」 「いいって。おまえ、あんまりバタバタすんな。」  織は今妊娠中だ。 「おし、帰るぞ。」  手を差し伸べると、麗は無言でそれを握った。  が。 「いっっ…」 「んな痛ぇのかよ。」 「だって…きゃ!!」  こいつ、軽いな。 「陸、乱暴にしないでよ。」 「わぁってる。」  むりやり腕の中に抱えると。 「おっ…おろして下さい!!」  初めて、ムキになった。  たまーに、双子の片われと事務所に来てたけど。  いつもブスーっとしてたよな。 「いいからいいから。」  笑いながら、玄関に向かう。 「おまえの靴、これ?」 「…はい。」 「あ、私が。」  後ろからやって来た万里(まり)が、麗の靴を持って俺の後に続く。  そしてなぜかガレージで助手席のドアを開けて待つ万里に。 「後ろ。」  顎で支持すると、万里は一瞬『はい?』みたいな顔をして後部座席のドアを開けた。  何だ?今の顔は。 「お気を付けて。」  万里に見送られながら。 「行くぞ。」  ゆっくり走りだした車の中、ルームミラーで麗の顔を見る。  間近で見るのは、初めてだな。  …文句なしに可愛いじゃねーか。  聖子は『性格最悪』なんて言ってたけど、知花は『聖子と似てる』って笑ってたっけな。 「冬休みじゃねーの?」 「…クラブです。」 「何やってんだ?」 「…華道部…」 「なるほど。」  そういえば、まこの弟が言ってたな。  毎年、文化祭の人気投票で一位になってるって。  この顔なら、選ばれても不思議じゃない。  聖子の言う『性格最悪』は、どうにでもなりそうだ。  それぐらい、本当に見た目がいい。 「あの…」 「あ?」 「あたし…まだ帰りたくないんですけど…」  突然、それがどうした。と言いたくなるような言葉。 「反抗期か?」 「…まあ…近いようなものかも…」 「でも、うちとしても、きちんと詫びなきゃなんねぇしな。」 「……」 「第一、そんな足でどこ行く気だよ。」 「…どこでもいいの…」 「……」  俺がそこまで気を使うこともないんだけど。  知花の妹ってことも手伝って。 「じゃ、一時間だけだぞ。」  俺は、ハンドルを切った。 「あたし…ずっと(ちかし)が好きだったの。」  ジュースを両手で持って、麗が言った。 「誓?」 「双子の弟。」  車は、夕暮れの公園。  麗は沈んだ表情で、自分の恋心を打ち明け始めた。 「好きなのに…気が付いたら意地悪しちゃって…きっと誓は、あたしのことなんて嫌いなのよ。」 「…んなこたねえさ。」 「誓に、彼女ができたの。」 「……」 「いつかは、そんな時がくるって…いつも覚悟してたつもりだった。で もー…いざできちゃうと…寂しいの。あたしの方が、誓をわかってやれるのにって…」 「…おまえも、彼氏作りゃいいじゃん。」 「そんな簡単にできないわよ。」 「どうして。」 「あたし、理想高いもの。」 「あははは。」 「それに…」 「それに?」 「きっと、その彼氏も誓の代わりだわ。」 「……」  外は、12月の冷たい風。  遠くから聞こえるジングルベルが、クリスマスが近い事を痛感させる。  あー…今年は海たちに何買ってやろう。 「本気で彼氏作る気でいた。でもそれも、誓の気を引くため…」 「ひねくれんなよ。」 「…このこと、姉さんには言わないでね。」 「あ?」 「誰にも打ち明けたことなんてないから。」 「なんで俺に?」  俺は、麗を見つめる。  すると、麗は… 「…同類だから。」  とんでもない言葉を口にした。 「…何言ってんだ。」  笑ってみせたものの…少し目が泳いでしまった。 「お姉さんが、好きなんでしょう?」 「何を根拠に…」 「すぐわかったわ。」 「俺には、ちゃーんと彼女がいます。」 「偽物の恋人なら、あたしにだって作れる。」 「いい加減にしろよ。」  つい、きつい口調になってしまった。 「も、いいだろ。帰るぞ。」  まだ一時間たってないけど、俺はエンジンをかける。  麗は俺を見つめて。 「陸さんの彼女って、どんな人?」  低い声で問いかけた。 「イケイケの女子大生。」 「そういうのが、好み?」 「美人でスタイルがよけりゃいいの。」 「最低。」 「おまえの好みは?」 「背が高くて優しくて頭が良くてお金持ちで、かっこよくて包容力のある人。」 「あはは、それって。」 「?」 「俺じゃん。」  俺は冗談で言ったんだけど。  麗は、じっと俺を見て。 「じゃ、彼氏になって。」  真剣な声で言ったんだ。
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