知らないことを知るために

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「…しまった。春休みか…」  桜花に出向いてみると、学校はガランとしていて。  そこで初めて、春休みだと気付く。  それにあいつ…見合いして学校辞めるなんて、神さん言ってたっけ。  突然…会いたいと思った。  顔が見たい。  遠くから見るだけでも、いいや…なんて思って出てきたんだけど。  小さくため息をつきながら、バイクを押す。  あいつ…本当に見合い結婚なんてする気なのかな。  ボンヤリしながらバイク押してると。 「あ。」  偶然にも、麗発見。  本屋に入って行ってる。  俺はバイクを置いて、そっと本屋に入る。  少しだけ…ドキドキしている自分を抑えながら、麗を追う。  麗が立っているコーナーは、花関係の本のコーナー。  …俺の前じゃ、花の話なんて、一度もしなかったけな。  俺は適当な本を持ち上げて、隠れるように麗を見つめる。  …優しい目になってる。  花のことを考える時は、あんな顔になるんだ…  しばらく花の本を立ち読みしていた麗は、続いて音楽雑誌を手にした。  あ。  あれ、先月取材受けたやつだ。  俺たちは、顔を載せない。  コメントのみ。  なんとなくヒヤヒヤして見てると、麗の表情がフッと変わった…ような気がした。  …何だ?  さりげなく後ろから近付いて、同じ雑誌を手にして離れる。  確か、13ぺージ開いてたな。  同じページを開くと、そこには知花の書いた詞が載っていた。  これは、俺たちがプロになるキッカケになった曲。  五年の歳月を経て、このたび、ようやくアルバム発表となった。  俺も、改めて…詞を読み返す。  いつも知花が歌ってるのを聴いてたはずなのに。  やけに…引っ掛かってしまった。  麗を見ると、まだ…そのページを見つめてる。  そして、おもむろに雑誌を閉じると。  さっき目を通していた花の本を手にしてレジに向かった。  麗が出て行って少ししてから、俺も店を出る。  …公園かな。  なんとなく、そんな気がして、俺は公園に向かう。  すると、予想通り。  麗は、ベンチに座って桜を眺めてた。  まだ、つぼみ。  その桜を、見上げる。  今日の麗は、淡いピンクのセーターに、生成のミニタイト。  俺と会う時は、もっと…大人っぽい格好してたっけな。  シックなベージュとか、黒とか。  ピンクなんて、着たの見たことない。  …似合うじゃねーか。  こういう色の方が、よっぽど麗らしい。  ふいに子犬がやってきて、麗にじゃれつく。  麗は、それを笑顔で抱き上げる。 「……」  結局、麗が帰るまでずっと。  俺は、麗を見つめていた。  知らなかった麗が、たくさん見えてきて。  俺の気持ちは……。
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