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出会い
谷崎俊太は偶然、あるものを発見した。散歩道、川をふと見やると、流れてくるのが見えたのだ。それは黒い、薄汚れたランプであった。磨いたら願とかかなえてくれそうやな、べたすぎる自分の思い付きに苦笑しつつも、俊太はランプを磨いてみた。するとランプの口から煙が勢いよく放たれ、人に似た”何か”が出現した。
「よう」
正体不明の”なにか”が話しかけてきた。驚きの余りそれまで固まっていた俊太はとっさにはうまく返答できず、代わりにひきつった笑みを返した。
「やっと外に出れた。感謝するよ。」
と”なにか”が言う。俊太は混乱のあまり、まだ返答できずにいた。それに対して、
「おい、そんなに怖がるなよ。俺はメフィスト・フェレス。メフィストってよんでくれればいいから。お前は?」
「俺は、、、谷崎俊太や。」
「なるほど、俊太か。とにかく俊太、サンキューな。」
「なにが?」
「俺をランプから出してくれたことだよ。偶然なんだろうが、感謝するよ。」
「、、、ランプこすったらランプの魔神が出てきて、願いごとかなえてくれる童話をどっかで聞いたことあってん、、」
「へぇ、、、じゃあ俺もなにかかなえてやったほうがいいのかな。」
「知らん、、けど、かなえてくれるんやったら、、やってほしいわ、、」
「了解。なにがいい?」
なんやこいつは。と俊太は思った。こんなフランクなノリのやつがランプの魔神ってやつなんやろか。
「代償とか、、、あるん?死んだあと魂とるとか。」
そいつはブッと噴出した。
「馬鹿だなぁ、俺が魂をとって何かメリットがあるか?第一、お前らが考える魂とか、天国とか、地獄とか、そういうもんは存在しないよ。死んだら”無”さ。」
俊太はそこそこに壮大なネタ晴らしをされて軽いショックを受けた。と同時に、こいつが魂をとることのメリットデメリットを俺が知らんことを考慮せんあたり、メフィストはたいして利口ちゃうわ、と俊太は思い、若干の親近感を抱いた。
「じゃあ、無条件でええん?」
「いいとも。あ、やっぱ一個だけいい?」
少し身構える。
「願いがかなった後の経過を見してよ。しばらく暇なんだ。」
ちょっとほっとした。
「なんや、そんなん好きにしてや。」
「オッケー。じゃ、願い事はなんだい?」
俊太のなかで瞬時に出た答えがあったものの、改めて熟考した。お願いできる権利を増やすってのはどうやろ。やけど、誰かが見てるわけちゃうけど、みっともない気ぃする。金はどうやろ。悪くないけど、1億か10億か100億か。どれくらい請求すれば手ごろなんかわからん。そもそも、そんな豪遊するんが好きなタイプちゃうし。仕事は辞めるほどに不満もない。むしろ楽しいくらいや。金はやめよう。そうなるとやっぱり”あれ”や。
「ある女性に愛されたい。」
俊太は答えた。
「ほう、いいじゃないか。どこのどいつだ?」
「嶋田さん、嶋田理央さん。会社の同僚や。」
「いいだろう、かなえてやろう。」
そういうとメフィストは忽然と消えた。
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