初体験

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初体験

 「いらっしゃいませ。」 店主と思われる男が愛想よく挨拶してきた。 「コースはいかがいたしましょうか?」 「お任せコース60分でお願いします。」 「かしこまりました。こちらの”伶佳”でよろしいですか?」 男は宣材写真を指差す。 「はい、大丈夫です。」 写真だけ見ても、良し悪しがたいしてわからなかった。だからこそ、別に誰でもいい気がした。 「では、こちらの待合室でお待ちください。」 男はそう言って、ある部屋に案内した。60代くらいのおじさんが先客として待っていた。こんな歳でもやりたいもんなんや、と妙に感心した。ややあって、おじさんは先に呼ばれた。 「お先に。」 そう言ったわけではないのだが、あたかもそういうかのように、こちらを見て、軽く会釈し、出て行った。ほんの10分程度、同じ空間にいて、言葉をひとつも交し合っていないのに、なんだかおじさんを戦友のように感じた。そんなふうに浸りながらぼんやりしていると、男が俊太を呼びに来た。
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