廃屋にて

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シュンスケには何が起きたのか分からなかった。 気付いたら、突き飛ばされていて、ジョージがいなくなっていた。 4本足は粘着性のトラップに顔を突っ込み、無様にも動けなくなっているようだった。 それは、4本足に襲われることがなくなったことを意味していた。 安全が保障されたのだ。 思わず、笑いがこみ上げてきそうなのを、シュンスケは抑えた。 敵は4本足だけではないのだ。 隠密行動をしないといけない。 けれど、気のゆるみを止めることはできない。 この感覚を、相棒と共有しようと、シュンスケはジョージを探した。 いない。 さっきまでいたはずのジョージがいなかった。 4本足の声がうるさい。 粘着床から抜けれなくなって、混乱しているのだろう。 ヂューヂュウウウウウウウウウウ! と耳障りな音を出している。 あまり、ここにいると危険だろう。 シュンスケ達がいくら気配を消していても、4本足の声で敵が寄ってくるかもしれない。 早く逃げなくては。 ジョージを見つけなくては。 この時、シュンスケは気付いた。 4本足の耳障りな音に混じって、かすかに聞こえる。 「いけ!いけ!いけ!」 粘着床のトラップから、それは聞こえた。 中を見ることはできない。 けれど、何が起きたのかは明白だった。 シュンスケをかばったジョージが、自らを囮にして、粘着床のトラップへと4本足を誘い込んだのだ。 つまり、ジョージはもう助からない。 「いけ!いけ!いけ!」 足は一本失ったが、動くことはできた。 シュンスケは、歩き去った。 その胸中を詳細に解説することはできないし、する必要もないだろう。 シュンスケはジョージの意志を継いだ。 食料を見つけたシュンスケは、見事にそれを持ち帰った。 行きと比べて、それは非常に平坦で緊張感の薄いものだった。 敵に襲われることもなく、トラップに引っかかることもなかった。 けれど、緊張感が薄れた原因は、何よりも、ジョージがいなくなったことだろう。 ジョージの子供達は、無事生まれていた。 食料は何度かに分けて、コロニーに持ち帰られた。 トラップや敵の発見など、シュンスケの功績は多かった。 時には身を挺して仲間を助け、けれど、死ぬことはなかった。 シュンスケは、自分の死体を死後食べてくれと伝えた。 食料不足は完全に解消されたわけではなかった。 提案は受け入れられ、シュンスケの体はコロニーの仲間達に分割して与えられた。 そして、数日後、コロニーは滅んだのだった。 参考資料  ゴキブリ大全 1999年5月31日第2刷発行 著者  デヴィッド・ジョージ・ゴードン 訳者  松浦俊輔 発行者 清水一人 出版社 青土社 <アースブラックキャップ12の効果> 4)巣に潜むゴキブリに効く! 餌を食べたゴキブリが巣に戻り、そのゴキブリのフンや死骸を食べたゴキブリも駆除。 巣の中の幼虫や他の成虫もすばやく巣ごと退治。 アース製薬のホームページから引用
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