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出発は2時間後、日が暮れるのを待ってからとなった。
シュンスケは、それまで体を休めることにした。
こうして、ゆっくりと身繕いができるのは、これで最後かもしれない。
猫が前足を舐めて綺麗にするように、体を清めていく。
昔を思い出す。
具体的にどんなことがあったというのではなく、遺伝子に寄り添うとでもいうのだろうか。
体の中に眠る先祖のDNAに身をゆだね、自分が何者かを思い出すのだ。
背中と腹が、天井と床にそれぞれ接することができる。
そういった狭い環境をシュンスケは好んだ。
シュンスケには恋人も、子供もいなかった。
理由はある。
だが、語るべき理由ではない。
ストリアの音が聞こえる。
この演奏の仕方は、ジョージだなと思う。
甘く、せつない、ストリアのこすれあう演奏。
シュンスケは、いつまでもこの演奏を聞いていたいと思った。
香りがした。
演奏終了の香りだった。
ジョージがあの女に会ったのだ。
シュンスケは、その場を去った。
嫉妬でジョージを殺してしまいたくはなかった。
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