69人が本棚に入れています
本棚に追加
久しぶりの実家
いつも泊まっていく部屋に布団を敷いて、子供たちを寝かせる。
大人たちは晩酌を始めた。俺はこの二週間の不安を紛らわせるように、しゃべって酒を飲んだ。途中で両親が順に風呂へ入り、妻も風呂へ入り先に休んだ。義姉さんも風呂へ行きそのまま寝室へ行ったようだ。
リビングで兄貴と二人になった。
俺は酒の力を借りて兄貴に、
「半年後、景気が傾くかもしれないから、備蓄を少しずつ増やして欲しい。父さんと母さんを宜しく頼む 」
兄貴は、酒に酔った俺を見て、
「わかった、わかった安心しろ。お前は、相変わらず心配性だからな 」
兄貴も相当酔っているようだから、覚えているか定かではないが、一応伝えられた。
これで、思い残す事はない…… ない。
「お前、何泣いてんだよ。泣き上戸も健在か……? 」
背中をバンバン叩かれた。暫く会えないかと思うと、涙を流しながらも背中の痛みを感じない。
その後も寝落ちしそうになりながら、今の窮状を忘れる程、兄貴と飲んだ。
ふと目が覚めた。
肩に毛布がかかっていた。部屋は豆電球だけになっていて薄暗かった。兄貴は、高イビキをかいて眠っている。蛍光塗料で光る時計を見ると、夜中の1時。兄貴を起こさないようそっとリビングを出て子供たちの眠る部屋へ行った。
そっと入ると、妻が目を開けた。
「ごめん、起こした? 」
ひそひそと小声で話しかけた。
「ううん。今ちょうど目が覚めたの 」
「酒飲みすぎた。ごめん 」
「……謝ってばかりね 」
「……ごめん。あっ、と…… ありがとう」
妻がふふと笑った。
俺は、子供たちの蹴飛ばした布団を直してやりながら、寝るスペースを探して布団へ滑り込んだ。手を組んで頭の下へ入れ、天井を見上げながら、
「このまま、ここへいられたらいいな 」
「そうだね。朝起きて、半年前からやり直せたらいいのに 」
「もしかしたら、明日変わってるかもしれないよな 」
「そうだといいけど…… でも、結局同じ事を繰り返すのかもしれないね 」
「そうか…… そうだよな 」
明日は、どこで迎えるのだろうか。
俺たち家族と車はどうなるだろうか。
妻の寝息が聞こえてくると俺もゆっくりと目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!