第一章

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※  がたがたと揺れるばかりで開く様子のない戸を見つめて、信武は肩を落とした。  どうしてすぐに本題に入れなかったのだろう。  昔からの悪い癖だ。言いたいことが言えなくて、相手に自分のことを知ってもらえない。  今日だって、緋月に相談事があった。そのためにいつもより早起きをして、知り合いの甘味屋に無理を言って菓子折りを作ってもらった。  どこに住んでいるのか知らなかったから、信武は片っ端から宿屋を訪ねた。何故宿屋にしたかといえば、あの珍しい髪の色ならば外国人の可能性が高く、それなら長屋ではなく宿を取っているだろうと思ったのだ。  信武は「緋色の髪と目の人を知りませんか?」と宿屋の主人に聞いた。誰もが変な顔をしながら首を横に振る。  そうしたら、緋色かどうかは忘れたが、赤い鬼が出た場所があると教えてもらった。そこがこの宿屋がある通りで、信武は期待しながら戸をたたいた。  結果は外れかと思えたが、引き返そうとしたところに珍しい色の蝶が目の前を舞い、それを目で追ったら違う人物が戸を開けた。  白い肌に、黒髪が映える、綺麗な人だと思った。だが同時に気づいた。目の前の人物の目が、美しい緋色だということに。  それからの流れは省略するが、信武は探していた人物に会うことが出来た。今は拒絶するように開かない戸が彼らの間にあるが。  緋月を待とう、と信武は地面に座りこんだ。
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