第一章

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「……きみは、武士なんだよね?」  帯刀をし、苗字がある。信武が武士だとわかっていた。それでも確認のために尋ねる。 「いいえ。僕は武家の出ではありますが、正式な武士ではありません。世の中でいう、浮浪者です。どこかに仕えているわけでもありません。でも姓を名乗ることを許されているので、武田と名乗ります」 「そうなんだ」  信武の答えに、緋月は眉を下げて笑った。 「ねえ、きみは俺に頼みたいことがあると言ったけど、専門にしている人に頼んだ方がいいと思うよ」  遠回しだが、緋月は「自分でなければいけないのか」と聞いていた。信武は勘が鋭いらしく、緋月の言葉の意味を理解して、首を横に振った。 「いいえ。あなたにしか頼めません」 「きみの頼みたいことなんて予想がついているけど、なんで俺なの? 妖怪から身を守る方法なら、寺にでもいけばいいでしょ」 「あなたがいいんです。一般人なのに、妖怪を追い払える力を持っているあなたが」  緋月は考えるような仕草をした。  一般的な武家の人と比べると、信武は人懐こく頭が固くない。金を積み上げて、名ばかりの専門家ごときに助言を請おうとしないところが、またいい。  身分の差を気にしないこと。これもいい。緋月は相手の身分を気にしない人が割りと好きだ。 「……きみ、さ」 「はい?」  沈黙が落ちた。信武が不思議そうに見上げてくる。 「やっぱりなんでもない」  緋月は困ったように笑って、信武の頭に触れた。そのまま優しく撫でる。丁寧に手入れされた手触りの良い髪が、くしゃりと乱れた。 「わ!?」  いきなりのことに、信武は後ろに跳んだ。その表情は恥ずかしい、というよりは純粋に驚いたと言わんばかりに固まっている。 「なにするんですか!?」  頭を両手で押さえ、叫んだ。しかし緋月からの反応はない。  緋月は固まっていた。その表情は見てはいけないものを見てしまったように驚いている。信武は緋月の反応のなさに疑問を抱いた。 「緋月さん! ……緋月さん?」 「……え? あ、なに?」  信武が何度か呼びかけて、漸く我に返った。顔には汗が滲み、何度も瞬きを繰り返す。
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