第二章

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※  桜が舞う。ゆっくりと、風に乗って。陽光を浴びた草が風にそよぐ。  緋色の蝶が、ひら、と桜の花びらを縫うように飛んだ。花びらに触れないよう遊んでいるようだ。ひら、ふわ、と桜の木の周りを優雅に飛んでいる。 「緋蝶(ヒチョウ)」  名を呼ばれた緋色の蝶は、自らの主の方へ飛び、白く長い指に留まった。  緋蝶の主は嬉しそうに、小さく声を出して笑った。 「……やっと、会えるね」  長かった。でも、もうあの子を待たなくて良い。自分から会いに行けるから。 「緋蝶も嬉しい?」  肯定するように、緋蝶はくるくると円を描くように飛んだ。 「五年ぶりだもんね。あの子、私たちのことを覚えてくれているかな? 覚えていると嬉しいなあ」  緋蝶の主は桜の木に背中を向けた。 「行こうか。あの子を捜さないと」  緋蝶の主は歩き出した。大切な、大切な人を見付けに。  緋蝶は、静かに主の背中を追った。
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