第二章

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「信昭さん、まだ仕込みの準備が終わっていませんよ!」  若い女性が信昭を睨むように見る。 「美代。すまない、すぐに終わらせる」 「あ、信昭兄さん。隅の方を借りていいですか?」 「構わないが……軟派野郎、信武に手を出したら承知しないからな」  信昭はぎろりと緋月を睨む。睨まれるようなことをした覚えはないんだけど、と緋月は心の中で呟いた。 「手を出すなんて考えたことないね。俺は男色じゃないから」  緋月はにこりと笑顔で返す。信昭は安堵したように息を吐き、信武の頭を撫でた。 「なにかあったら叫べ。すぐに助ける」 「信昭さん、仕込み!」 「ああ」  美代という女性に強く呼ばれて、ようやく信昭は奥へと引っ込んだ。信武を何度も振り返ったのはきっと幻覚ではない。  二人は隅の日当たりのよい席に腰をかけた。差し込んでくる日が温かく、眠くなってしまいそうだ。 「すいません、うちの従兄がしつこく絡んでしまって」 「あに、ということはお兄さんなんだね。それにしては似ていないようだけど」 「え? ……ああ、勘違いさせてすいません。信昭兄さんとは従兄弟なんです」 「へえ」 「信昭兄さんは親族の中で一番僕を気にかけてくれているんです。その分、思い込みも多いんですが」 「そうみたいだね」  緋月の頷きに信武は苦笑いをした。  奥から信昭が戻ってきた。手には団子を載せた皿を二皿持っている。 「信武、これでも食べていけ」 「ありがとうございます、信昭兄さん」 「ああ」  信昭は嬉しそうに微笑んだ。緋月が二人の様子を見ていると、突然信昭が睨み付けた。 「一応お前の分もあるが、本当はあげたくない」 「客に対しての態度がなっていないね。でもありがとう」 「お前は金を払えよ」 「はいはい」  緋月はみたらし団子を口にした。甘じょっぱいたれが美味だ。 「うん、味はいいね」 「味以外は悪いと言いたいのか」 「言ってないよ」 「失礼な奴め」  信昭は眉間に皺を寄せ、奥へと引っ込んでいった。大柄な彼がいなくなると、小柄な信武は頭を下げる。 「すみません、本当にすみません」 「大丈夫だから。それで、頼みたいことって、なに?」  信武は視線をどこに置くか、考え、手の付けられていない団子へ落とした。
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