第二章

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「……笑ったり、疑ったりしないでくださいね?」 「なにを今更。話は聞くって約束したでしょ、きみが嫌がることはしないよ」 「僕を呼ぶモノをどうにかしてほしいんです」  緋月は怪訝そうにした。 「どうにか、とはどういう意味? いなくなってほしいの? 静かになればいいの?」 「いなくなる、というよりは成仏してほしいです。あとできれば僕を呼ぶ理由が知りたいんですが」 「それくらいなら構わないけど、俺は依頼に見合う報酬をもらう。この依頼は高いよ? 安定した収入のないきみに支払えるの?」 「どのくらいですか?」 「大判百枚(約六六〇万円。一両=六十六万円計算)かな。全部、前払いでね」 「大判百枚……!? 前払い!?」  目玉が飛び出そうなほど信武の目が見開かれる。緋月は涼しげな顔で茶をすすった。温かい煎茶が甘かった口をすっきりとさせる。 「まず、依頼の内容が不明瞭。きみの中の成仏ってどんなことを言うの? 相手が快く消えること? それとも相手の意志なんか関係なしに消えてもらうこと?」 「それはもちろん、快く……」 「それって、『きみを食べたら潔く異界に帰ります。二度と人間界に姿を見せません』と言われても同じことが言える? 俺はきみがそれでもと言うなら構わないよ。さっきも言ったとおり、前払いじゃなきゃ仕事しないから」  金さえもらえれば、依頼主の条件に合わせて動く。それが緋月だ。たとえそれで依頼主が命を落とすとしても、知ったことではない。依頼をしてきた本人の浅はかさが問題だ。
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