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緋月はふと気になって、話題になっているものを見に行くことにした。謝りながら人を押し分け、中心近くまで向かう。
「あいつは……!」
円のような人集の中心にいたのは、小さく体を丸めた真っ白な髪の少女だった。頭を両手で隠しているため顔は見えない。だが、体の大きさからまだ十四、五才くらいだろう。
町の人々に石を投げられたらしい。頭を守る少女の周りに、いくつかそれが転がっていた。
「やっと追い付いた。緋月さん、どうし…………」
後から少女を見つけた信武は、あ、と声を上げた。彼には少女の正体が分かるらしい。
「あの女の子、妖怪ですよ。でも珍しいですね、人の姿になれる妖怪なんて」
呟いた信武は、反応のない緋月の顔を見上げた。緋月は驚愕と怒り、安堵と喜びが混じったような顔をしていた。
「緋月、さん?」
緋月には信武の声が聞こえていないらしい。人々から罵倒されている少女の様子に眉をひそめていた。
どうしたのだろう。微笑むことの多かった緋月がいろいろな表情を顔に出していた。
「緋月さん?」
信武がもう一度、不思議そうに名前を呼ぶ。緋月は声をひそめた。
「これからあの女の子を助けに行こうと思っているんだけど、まだついてくる?」
「あの子を、ですか?」
「そう。きみの依頼の準備はまた後でするよ。で、どっち?」
少女を助けに行けば町の人たちから反感を買うことは間違いない。顔がバレてしまえば町に出るたびに人々から気味悪がられてしまうことも理解している。
それでも緋月は考えを変えるつもりはない。少女を助けたい。
信武は悩んだようで、しばらく少女に目を向けていた。やがて答えは出たようで、大きく縦に頷く。
「もちろんついていきます。あんな子を放ってなんかいられませんから」
緋月は目を見開いて固まったが、それは一瞬のことだった。早く行動に移さないと。
「わかった。行くよ」
人を掻き分け、少女に近づく。彼女は緋月の存在に気づいていたらしく、特に驚くことはなかった。ただ助けを求める目をしていた。
「俺があの子を助けたら、一気に走り抜けるよ。見失わないでね」
「はい」
信武が短く返事をする。
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