第二章

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 緋月は人の間をすり抜ける。少女のもとへ駆け寄ると、素早く抱き上げた。そしてそのまま人の間を走り抜ける。驚いた人々は緋月を避けるために道をあけた。 「あ、なにしやがる!」  我に返った誰かが叫び、緋月を捕まえようとする。しかし誰も彼を捕まえられない。緋月は着流し姿で子供を抱いているのに、軽い調子で避けるからだ。 「追いかけるぞ!」 「追え、追え!」  町の人たちが追いかけてくる。緋月は彼らにちらりと目を向けた。  着流しで走りにくそうに追いかけてくる男たち。彼らの中に刀を下げている者はいない。 (全員、町人か……)  捕まってしまえば殴られたり蹴られたりするだろうが、斬り合いに発展することはなさそうだ。考え、緋月は最善の道を選ぶ。 「ついてきて」  近くにいた信武に聞こえるように囁き、速さを増す。後ろの武士の少年は汗を掻きながらもぴったりとついてきていた。 「逃げたぞ!」  大勢の人々が追いかけてきた。信武は、ひっ、と喉を震わせた。 「そこ、曲がるから」  簡潔に言って路地裏に入る。暗くて狭いのに、迷わず先導していく。
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