第二章

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※  どうにか町の人々の目を掻い潜り、宿屋に着いた。 「あ、オババ。ただいま」  三人は、玄関で松に出くわした。松は何年も愛用している、くたびれた白い頭巾と割烹着を身につけている。掃除をしていたようで、使い古された雑巾を手に持っていた。 「おかえり。随分帰りが早かったねえ」 「ちょっと知り合いに会ったからね。買い物はお昼過ぎに行くよ」  笠を被った神無は、緋月の着物を掴んだ。松に警戒心を抱いているらしい。  今まで町の人にされたことを考えれば無理もないだろう。  松は緋月の後ろにいる二人に笑いかけた。 「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり」  客に対する礼をし、彼女は奥へと行ってしまった。神無は暫く瞠目する。 「緋月さま、あの人、笑った。怖くない……」 「それは良かったね。とりあえず、俺の部屋に行こうか」  緋月の部屋に着くと、松がお茶と茶菓子を盆に乗せて持ってきた。茶葉代も安くはないのに無理をする、と緋月は苦笑した。 「白湯でいいのに」 「白湯だと味気ないじゃないか。ほら、二人も遠慮するんじゃないよ」 「ありがとうございます」 「……ありがと?」  松は満足そうに笑うと、部屋を出ていった。緋月は二人に向き直り、菓子を勧める。 「この茶菓子、美味しいんだよ。甘すぎないから。いつも多目に貰っているし、遠慮しないで食べていいよ」 「あ、いただきます」 「いただきます」  二人は桜の形をした饅頭を手に取ると、口に入れた。暫くして、満面の笑みが溢れる。 「美味しいです! 誰が作ったんですか?」 「知り合いの女性だよ。いつも突っかかってくる変わった人なんだけど、菓子の腕は本物だね。甘いけど、たくさん食べたくなる」 「はい!」  信武は同意し、行儀よく完食した。 「緋月さま、中に入っている黒いのはなんですか?」 「餡だよ。こしあん」 「こしあん美味しいです!」  はむはむと急いで食べる神無。栗鼠のようで可愛らしい。  二人が落ち着いた頃、緋月は口を開いた。 「さて。まず、きみに説明しようか。俺と神無の関係について」 「えっと、その前にひとついいですか?」 「なに?」 「どうして僕に教えてくれようとするのですか?」 「それは……」  緋月は、真面目な顔になった信武に笑いかけた。
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