第二章

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「そんなに気を張らなくていいよ。大した理由ではないから。強いて言うなら、きみが俺の仕事の部下になったからかな。ほら、上司のことは知っていて損はないでしょ? きみはどうせ十年間働くという条件をのんでしまったことだし、俺としてはお互いのことを理解し合って十年間を過ごしたい。何も知らないって、ほら、とても気持ちが悪いんだよね」 「そういうものですか? 筋は通っているような気はしますけど」  信武は首を傾げながら、考えていた。深く悩まなくていいことなんだけど。緋月はお茶を一口飲んだ。 「じゃあ俺と神無の関係について説明するよ。俺は、神無と知り合いですらない。お互い、今日初めて会った」 「それならどうして神無ちゃんは緋月さんを知っていたの?」 「緋月さまは有名な方だから。妖怪ならみんな知っている」 「有名……?」  信武が不思議そうな顔で緋月を見る。緋月は苦笑いをした。 「緋月さまは異能が使える『緋色の民』なの」 「え。い、異能……ですか……?」  信武が驚いたように緋月を見る。やはり誰でもはじめは同じ目をするのだな、と緋月は笑みの裏側で思う。 「変な目で見たくなる気持ちは分かるけど、やめて。俺だって、本当は知られたくなかったんだから」 「あ、すいません」 「別にいいよ。慣れているし」  微妙な空気が流れる。 「ちなみに、異能というのは?」  話をするために、信武が尋ねる。緋月は茶を飲んでから答えた。 「未来を視る力があるよ。といっても、対象者は一度でも触れたことがあるものだけ。きみの未来でも予言してあげようか?」 「え…………」  言葉を失った信武に、緋月は声を出して笑った。予想通りの反応。でも面白い。 「冗談だよ。きみは未来を知るのは嫌みたいだからね、必要以上には教えない。それに、未来は聞きすぎても駄目だ。自分でなにも出来なくなるから。まあ夕飯とか探し物も分かるから、知りたいときは聞いていいよ」 「あ、はい」 「ところでお茶のお代わりはいる?」 「いえ、十分です」 「神無は?」  神無は首を横に振った。 「じゃあ俺がもらうね」  緋月は自分の湯飲みに茶を注いだ。その時、一瞬だけ緋月の瞳が輝いた。緋色の瞳が赤みを増し、炎のように煌めく。
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