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「そんなに気を張らなくていいよ。大した理由ではないから。強いて言うなら、きみが俺の仕事の部下になったからかな。ほら、上司のことは知っていて損はないでしょ? きみはどうせ十年間働くという条件をのんでしまったことだし、俺としてはお互いのことを理解し合って十年間を過ごしたい。何も知らないって、ほら、とても気持ちが悪いんだよね」
「そういうものですか? 筋は通っているような気はしますけど」
信武は首を傾げながら、考えていた。深く悩まなくていいことなんだけど。緋月はお茶を一口飲んだ。
「じゃあ俺と神無の関係について説明するよ。俺は、神無と知り合いですらない。お互い、今日初めて会った」
「それならどうして神無ちゃんは緋月さんを知っていたの?」
「緋月さまは有名な方だから。妖怪ならみんな知っている」
「有名……?」
信武が不思議そうな顔で緋月を見る。緋月は苦笑いをした。
「緋月さまは異能が使える『緋色の民』なの」
「え。い、異能……ですか……?」
信武が驚いたように緋月を見る。やはり誰でもはじめは同じ目をするのだな、と緋月は笑みの裏側で思う。
「変な目で見たくなる気持ちは分かるけど、やめて。俺だって、本当は知られたくなかったんだから」
「あ、すいません」
「別にいいよ。慣れているし」
微妙な空気が流れる。
「ちなみに、異能というのは?」
話をするために、信武が尋ねる。緋月は茶を飲んでから答えた。
「未来を視る力があるよ。といっても、対象者は一度でも触れたことがあるものだけ。きみの未来でも予言してあげようか?」
「え…………」
言葉を失った信武に、緋月は声を出して笑った。予想通りの反応。でも面白い。
「冗談だよ。きみは未来を知るのは嫌みたいだからね、必要以上には教えない。それに、未来は聞きすぎても駄目だ。自分でなにも出来なくなるから。まあ夕飯とか探し物も分かるから、知りたいときは聞いていいよ」
「あ、はい」
「ところでお茶のお代わりはいる?」
「いえ、十分です」
「神無は?」
神無は首を横に振った。
「じゃあ俺がもらうね」
緋月は自分の湯飲みに茶を注いだ。その時、一瞬だけ緋月の瞳が輝いた。緋色の瞳が赤みを増し、炎のように煌めく。
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