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彼は顔を地面に近付け、きつく目を瞑った。
――しかしいくら時間が経っても、闇の手に捕まる感触はおろか、手の体温すら感じなかった。……闇に体温があるかは信武にも分からないけれど。
目を開けると、一番に地面がはっきりと見えた。月が雲から現れたようだ。
信武は恐る恐る振り返る。後ろになにがあるか分からない。その恐怖で心臓が早鐘を打っていて、汗が止まらない。
そこに黒い手はいなかった。代わりに提灯を持った人の後ろ姿が目に入る。
高い位置に一つに結ばれていても、肘まである長い緋色の髪。月の光を受けて炎のように輝いている。
(炎の、化身──?)
後ろ姿で分かる華奢な体つきは女性を連想させられる。しかし背の高さから男性のようにも見えた。
その人は信武の視線に気づいたらしく、振り返った。信武は相手の美貌に驚愕した。
淡い月の光でもはっきりと分かるほど透き通った白い肌。長い睫毛に縁どられた瞳の色は、髪と同じ緋色。顔立ちは男性と言われても女性と言われても納得できる、中性的なものだ。
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