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薄暗い部屋。おそらく時間は夜も遅い。その中で、目の前に鮎の塩焼きと豆腐の入った味噌汁が見えた。ああ、夕餉は魚か。羨ましい。
「そういえば、今夜は鮎の焼き魚みたいだよ。塩焼きで美味しそう」
「焼き魚ですか? 今日の夕餉が?」
「うん」
緋月はにっこり笑って頷いた。信武はぎこちなく笑い返した。
いきなり異能だと言われても実感しないだろう。当たり前の反応だ。信武は妖怪を見ることは出来るが、一般人なのだから。
「あとは俺の味方に式神がいるよ。本当は式神と、少し違うらしいんだけど」
「それは見せてもらえたりしますか?」
「いいよ。おいで、緋鳥」
呼び声に反応するように、緋月の手のひらから緋色の鳥が現れる。緋月の髪と同じで美しい色だ。
緋鳥は羽音をたてずに信武の周囲を飛んだ。信武は非現実的な出来事にただ驚くばかりだ。
神無はというと静かにしているが、少し緊張しているように見えた。
「神無は怖いよね。緋鳥の火は妖怪にも効くから」
「緋鳥」
緋月が右手を伸ばすと、緋鳥はその上に足を降ろす。
「これは、現実には存在しない生き物。さっきも言ったけど、式神といえば少しは馴染みがあるかな。『月の民』で使役できるのは白銀の民と緋色の民くらいなんだって」
「月の民……? それはなんですか?」
「昔、妖怪を退治した人間なんだって。俺みたいに茶髪とか黒髪じゃないから、純粋な日本人だと思われなかったらしいけど」
緋月は茶菓子を竹串で刺し、口に運ぶ。その姿は女性のように美しい。
「月の民のことは、本当は教えてはいけないんだ。ただでさえ彼らは外見のせいで人に嫌われやすい。それなのに人に彼らのことを教えて、怖がらせたくないからね」
「なんか、すごいですね。未来は視えるみたいですし、式神も使える。陰陽師みたいですね。憧れます」
「そう? 未来なんて視えても、なんの役にもたたないよ。なにも変わらなかったし」
「緋月さま、謙遜しないでください。『先見の力』が使えるお人は、緋色の民でも珍しいのですから」
「謙遜じゃないよ。未来を視られるだけで、本当になんの役にもたたないんだから」
「そんなことは……!」
咄嗟に否定しようとしてきた神無を、緋月は冷たい目で見る。
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