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「すんげえスクープんなってんな。」
日本に帰って。
事務所の廊下で光史が週刊誌を開いて笑った。
オリンピック。
世貴子は、1分16秒。
見事な背負い投げで優勝した。
一瞬にして時の人となった世貴子は、最初の記者会見で。
『普通の女の子に戻ります♡』
と、金メダルを片手に満面の笑みで告白し。
取材陣のみならず、協会のお偉いさん方の度肝も抜いた。
かなり強く引き留められたようだが…
そこは意志の強い世貴子。
「もうこれ以上筋肉つけたくないんです。」
「今まで出来なかった事をやりたい。」
と、譲らなかった。
週刊誌には『優勝会見が引退会見に!!衝撃の15分間!!』の見出し。
「しかし、驚くだろうねえ。来週結婚だもんな。な、新郎。」
陸に肩を叩かれて、うなだれる。
正直言って…本当に優勝するとは思ってなかった。
いや、信じてはいたけど…
ブランクを思えば、まさかオリンピックで優勝なんて…って。
それはそれで嬉しいけど…
問題も、ある。
最近、世貴子は人気者だ。
アイドル並になっている。
いつもはクールに世貴子の相手をしていた二階堂の猛者達が、お祝いだと言って宴を開いてくれたらしいが…
稽古着以外の世貴子と初めて会ったらしく、ツーショット写真を撮るために行列が出来た…と、陸から聞いた。
世界最強、そして誰からも愛される世貴子。
自慢でしかない……はずなのに。
いや、俺がもっと磨きをかけて、世貴子の目を他に向かせなきゃいいだけの事。
…うん。
そうだ。
「どうだよ、世界一強い女と結婚するってのは。」
陸が茶化す。
俺は、そんな陸に身体をドンとぶつけて。
「その、世界一強い女を押し倒すことが簡単にできる男なんだよ、俺は。」
って…威張ってみせたんだ…。
10th 完
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