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ふと、周りを見回したところ、このあたりが実は大田区の中小企業が並ぶ通りであることに、気が付いた。
その中に豊本の目にとまる会社が存在した。
株式会社豊吉。
まさに会社名が高校時代の彼のあだ名である。
豊本は、引き寄せられるように近づいていき、看板の前で立ち止まった。
「おい、君、どうした?面接かい。今年は早いな。来てごらん。社長に会わせてやるから。」
決して綺麗とは言えない作業着を来た三十歳くらいの男が、いきなり声をかけてきた。
「いえ、僕は・・・」
と、言う間もなく、その男は、既に“社長っ”と大声をあげていた。
よく見ると、目の前のガラス戸に、社員募集という手書きの張り紙があるではないか。
豊本は、どうしたものかと悩みつつも、時間はまだあるので、適当にあしらって、何とか、本面接に間に合うように抜け出そうと、腹をくくった。
そう考えているうちに、さっきの男が、“おい君”と言いながら、奥から手招きをしているではないか。
豊本は呼ばれるままに、作業をしている人間たちに珍しがられながら、作業場を通り過ぎていった。
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