1人が本棚に入れています
本棚に追加
※
白銀(はくぎん)の民は術を使うことが出来る。ただ、一つだけ欠点があるとすれば、生まれつき身体の一部が機能しないところだろうか。
白銀の民は、年中、雪の溶けない銀嶺に住んでいた。そこに聳え建つのは、白銀の民のための城。食料を育てる環境がなかったせいで、白銀の民は時々山を下りて食材を採ったり、町で働いてそのお金で必要な物資を揃えたりしている。
少女──白夜が十歳そこそこの頃、二十半ばだった銀作は彼女のお目付役に任じられた。
少女は、千年に一度の人材と謳われた当代よりは劣るものの、百年に一度の逸材だと言われてきた。銀作も、あと数年も経てば実力のある術者になるだろうと予想している。
本来なら目付け役兼教育係は当代の役目だった。だが当代が八十を超えた老体で、術の経験が白夜より上でも体力では負けるという理由から、術も体力も実力のある銀作が選ばれた。
(どうして俺が次代様の監視なんかを……)
銀作は右手で頬づえをつき、生まれつき左目が閉じている少女を見つめた。
肩を越えた美しい銀髪を結びもせず、白夜は城の書庫で本を読んでいた。彼女の世話役曰く「聡明で読書好き」。果たしてそうなのだろうか、と銀作は疑っている。
白夜が黙々と読んでいる書物の題名は『罠特集』。それも忍者のような、人に姿を見られないようにする職種の罠だ。とても、純粋に知識がほしい子供が読む内容ではない。
(このクソガキ、絶対に城から抜け出すつもりだな)
自慢ではないが、銀作はここの蔵書を読破した。どこにどの本があり、何が書かれているかも正確に覚えている。
その位長い間、銀作も外に出られなかったのだ。元服を迎えてからは妖怪退治やら買い物やらで外に出る機会が出来たが、それまでが本当に暇だった。
(俺が子供の頃に出来なかったことを、こんな子供に成功させてたまるか。子供は黙って絵本でも読んでろ)
大人げなくそう決意し、銀作は片時も彼女から離れることをしなかった。退屈しのぎにちょっとからかえば白夜はすぐにこちらに意識を向け、脱走のことを忘れた。単純な奴、と何度腹の中で笑ったことか。
時々、白夜は幻術を用いて脱走を図ったこともあったが、威力はあっても所詮は子供。単純な構造の術しか使わない。銀作は術をもろに受けないよう気をつけながら、白夜の術を経験で打ち負かした。
最初のコメントを投稿しよう!