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「あんの長生きだけが取り柄のババ様がこんな……こんなことを命じられなければ……」
きっとまだ外の世界を見ることができた。色の変わる空、季節によって植物が変化する温かい大地……これらの知識や謎を知ることだってできたはず。美味しいものだってたくさん食べられた。
「長生きだけが取り柄じゃないぞ」
ぬっ、と二人の横に現れたのは、齢八十を越える当代銀月だった。銀作は驚き、白夜にかけていた力を緩める。白夜はそれに気づくと、子供らしい柔軟さで銀作の手と壁の間から抜け出した。
銀作は当代銀月に膝を折り、頭(こうべ)を垂れた。
「当代様、お加減はいかがですか」
「悪くない」
当代は銀作を見下ろした。
「銀作は本当に外の世界が好きじゃのう」
孫に話しかけるような優しい声で、当代は言う。銀作はそんな老婆から目を逸らした。
「……俺からすれば、城の中で一生暮らしていたいって思う連中がどうかしていると思う」
鳥籠の中で生きることの何が楽しいのか。平和を与えられるだけの人生など、無駄以外の何物でもない。
(俺はもっと外の世界が見たい。自分の知らない知識が欲しい。美味しいものをお腹いっぱい食べたい)
雪が一年中残っているこの城ではなく、温かい場所へ行きたい。桜や夏の入道雲、秋の紅葉が見たい。白い世界はうんざりだ。
「そんなに外に出たいのなら、次代の目付役を解いてもよいぞ」
「本当すか!?」
「ああ。ただし、名誉ある仕事を辞めたとなれば、おまえは何かと非難されることになるが」
「そんなの、自由になれることに比べれば……」
「駄目!」
白夜が銀作の腰に抱きつく。銀作は、ぎょっ、と目を見開いた。
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