私の一生

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私は焼け野原となった街の中を歩く。草木は残らず灰となり、人の暮らしていた家々は形を残してはいたものの、人が住めるような場所は少なかった。 「ああ!それは子供のごはん!返しなさい!返しなさいよぉ!」 追いすがる女を蹴り飛ばし、少年が走り去っていく。足に怪我をしているらしい女はその場に泣き崩れた。住む家どころか食べる物もないのだ。まともな水もどこで飲めるのか。人や動物が浮いている川は、腐臭がただよっている。男がやって来て、人間だったものを乱暴に担ぎ上げると、山と積まれたトラックの荷台に放り込みどこかへと走り去っていった。 私を助けようとしくれた男は死んだ。のばした手は私に届かず爆弾が落ちてきたのだ。もちろん私もそのまま爆音と衝撃と炎に包まれた。しばらく意識は失っていたけれど、今こうして私は歩いてる。どこへ行こうかどこへ行くべきかわからず、気に向くままに歩いて行く。 空を見上げれば黒々とした煙の向こうに青空が見えた。あの向こうには、亡骸となった人々の魂があるのだろうか。自分もあそこへ行けたら良かったのに。廃墟となった街の中を歩くのは気が滅入る。 「食べる物はあるのかい?」 私に声がして振り向けばボロをまとった老婆がにやりと笑った。頬は煤で汚れ、身体の具合も悪そうだ。頭に怪我をしているようで、血の跡が見える。どこへ行っても吐き気のするような臭いがただよう中、老婆からは甘い香りがした。一体なんだろうか。警戒心の強い私は興味をもった。ゆっくり近づいていくと、老婆は懐から乾パンの欠けらを取り出した。 「よければあげるよ」 なぜ自分で食べないのだろうと見上げると、老婆は笑みを浮かべたまま固まっていた。そのまま動かないのを不審に思い、近づいて行くと息をせずこと切れているのに気がついた。老婆の懐に何か丸みのある塊がある。それが何かに気がついて私は慌ててその場を後ずさった。焼け焦げた小さな塊だった。生まれたばかりの赤ん坊のようだった。老婆が取り出した乾パンをありがたくいただき、さらに隠し持っていた干し芋を引っ張りして食べた。私が物を食べている所を見た男がやって来て、何も言わずに私を蹴り飛ばした。それから男が何をしたかは知らない。私は何かに頭をぶつけて、すっかり意識を失ってしまったからだ。
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