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私はあたたかい金色の光の中にいた。不思議なことに私は死んだのだとはっきりわかった。空を見上げた時、黒々とした煙の向こうに青空が見えた。私はきっとそこにいるのだろう。息が楽にできて嬉しかった。変な臭いをかがなくて良いし、誰かに蹴飛ばされる心配もない。苦しみも悲しみも無縁の場所だった。
光の向こうに優しそうなひとが微笑んでいた。背には白い翼がある。鳥のようにお空を飛べるのだろうか。その人のもとに行こうとしたら、微笑んでいた優しそうなひとは慌てて首をふった。私にはどういうことかわからなかった。優しそうなひとは私の背に向かって人差し指を向ける。思わずつられて振り向いた。
振り向いた私は何かにはさまれて身動きがとれなかった。暗く鼻が曲がるような臭いとパチパチと火の粉がはぜる音。慌ててその場から逃げ出そうとしたけれど、一向に体が動かなかった。何とかして身をくねらせて挟まれたものの間から外を見る。
大きな炎が目の前に迫り、上には黒い煙が昇っていく。この街が火で包まれた時のことを思い出して、この身に恐怖が這い上がる。よくよく見てみると私の周りのあるものは、人や動物の体だった。ぴくりとも動かない肉の塊が、次々に炎の中に投げ込まれる。
「私は生きている!」
そう叫んだが誰にも届かなかった。私のそばにある肉の塊が持ち上げられ、私も一緒に投げ込まれた。恐怖の叫びは炎に巻かれて消えていく。何がどうなったのか私にはわからなかった。そばでは煤だらけになって涙をこぼし、手を合わせて何か唱える人たちが視界をよぎった。
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