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背中合わせ⑵
「ちょっと待ってくれ、あの…また、来るんだろ?」
俺の言葉で執事が睨む。
感情を押し殺してるが、かなり怒ったのが分かった。
口を慎め!
目が、そう言っている。
俺は思わずため口になったのを悔やんで、言い替えた。
「待ってくれないか?スポンサーの君は、酒造りの進行に
やはり見回りに来てくれるのが常道と思う。」
「時々は来てくれないか?頼んでは駄目だろうか?」
***
会いたい。
見つめるだけで、いい。
彼女に会いに行くのは、絶望的だ。
だったら、来てはくれないだろうか。
彼女が、俺を振り向く。
「ごめん遊ばせ。それは出来ませんわ」
凍る目の彼女が答える。
それ、見ろ。
何を考えてる。
俺は馬鹿か?と心で自嘲する。
彼女は続ける。
「・・・私も、暇ではありません事よ。
実は級友から、店番を頼まれましてね。
midnight blueという洋菓子舗を、ご存じないかしら?」
「ケーキ屋?」
「それなりに有名店ですわ、でも男の方には無縁の場所かしら」
***
関係ないから、自分の領域を侵すな。
そう言われた気がした。
彼女は強い。
俺が居なくても、1人で立てる。
今までも、そうして来た。
触れただけでも、奇跡だ。
ましてキスしたのは、常軌を越え夢にしか思えない。
心が騒ぐ。
わきまえろ。
距離を置け。これ以上、関わるな。
現に彼女は俺から、線引きした。
その線は越えられない。
越えちゃ、いけない。
だけど。
気付いてしまった。
―――彼女が、好きだ!
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