[プロローグ] 令嬢伯爵の誘い。

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[プロローグ] 令嬢伯爵の誘い。

こんなはずじゃ。 俺はそう思った。 そもそも、こんな誘いに乗る俺がバカなんだろうか? 俺のうちには、金が無い。 老舗(しにせ)の酒蔵の跡取りの俺が、家督を次いだ時には火の車。 老舗なんて言っても、時の流れに乗れないなら、 家は(かたむ)いてゆく。 腕のいい杜氏(とうじ)が87歳。 じいさんの代から守って来た酒は、跡取りを失い四散(しさん)。 俺の親父が、次の杜氏を継ぐはずだった。 だけど。  新酒の品評会出展に向かう途中、対向車にハンドルを取られ、 車は奈落(ならく)に落ちた。 助手席の母さんと新酒を巻き込み、親父は車ごと。 *** その時、俺は高校1年。 いきなり第13代目となった。           ## 後は坂道だ。 新酒の発表も出来ないまま、株主が逃げる。 当たり前だ。 酒蔵は()め、パニック。 右左も分からない、俺が当主。 新米と杜氏で荒れに荒れた。 クッションの親父が居ないからだ。 跡取りの杜氏は生まれない。 みんな逃げる。 いずれ引退する、老いぼれ頑固の杜氏に、 誰も手を貸さない。 坂道を転げ落ちる。 高校も止め、蔵を守りたかった。でも俺に出来たのは資金集め。 傾いた酒蔵に金を出す馬鹿は居ない。 酒づくりも、知らん若造に金は貸さない。 親父はゆっくり俺に、酒づくりを教える気だったらしい。 銀行の滞納が増える。       ## そんな時、銀行の総取りが話を持ちかけて来た。 相手は第23代目、伯爵令嬢。 「(わたくし)と賭けをなさらない?勝てば借金を無しにするわ。」 「そうね。私の得意分野じゃフェアではないわ、 貴方の得意な飲み比べはどうかしら?」         ## 相手は16.17歳。 「飲めるのか?」 「たしなみまでに」 俺は20歳。 だから勝てると、思ったんだ。
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