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嵐の前の昼休憩
いつも通りの昼休憩。
人の減った教室で、そよそよと流れる春先の風を少し開けた窓から感じながら僕は本を開く。
穏やかな時間。
これは一年かけて僕が手に入れた至福の時だ。
初めは周りのクラスメイト達から「サッカーやろうぜ!」「大縄跳びでギネス作るぞ!」と誘われた。
しかし「僕は読書が好きなんだ」と話すと、彼らは「わかった!」と理解を示してくれ、僕のことをそっとしておいてくれるようになった。
話すと分かるやつらで助かった。ここで波風が立てば、穏やかな高校生活がふいになるところだ。
それにしても男子はどうして皆サッカーが好きなのだろう。そのメカニズムについて書かれた書籍があれば是非一読させて頂きたい。
それはさておき、そんなこんなで僕はクラスメイトとの関係も取り持ちつつ、一人静かな昼休憩を獲得したのだ。
――しかしその日、事件は起こった。
いつものように僕がお気に入りのミステリー小説に浸っていた時。
「――――――」
その声で僕は現実に引き戻された。
ふと活字から目を逸らすと、窓際の僕の席から対角線に離れた扉付近。そこで集まっている女子たち。
そしてその中に、僕が密かに想いを寄せる峰岸理洲がいた。
誤解のないように一つ言わせて貰いたいのだが、僕は決して読書の振りをして彼女たちの会話に聞き耳を立てているのではない。実際に何を喋っているのかわからない。
ただ、峰岸の声だけは。
何故か僕のところまで届いてしまうのだった。
彼女の声が他と比べて大きいというわけでもないのに、不思議なことに僕の耳には凛と響くのだ。そのメカニズムについて書かれた書籍があれば是非一読させて頂きたい。
だから重ねて言うが、断じて盗み聞きをしているわけではない。
だが、その日も聞こえた。
聞こえてしまった。
周囲の友達に話す、その鈴のような声が。
「好きな人のタイプ? うーん、私、背の高い男の人がタイプなんだよね」
――そして、僕の生活は一変した。
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