1人が本棚に入れています
本棚に追加
0,プロローグ
突然、衝撃が走る。
脳を揺さぶられるような衝撃だ。
眼球と瞼の間で火花が散り、あたり一面が白く染まる。丁度、加法混色の中心を極めたような白だ。一切の他色の侵入を許さないといった風潮の彼方から細い地平線のようなものが、ぽっと現れて、それが徐々に大きくなり白を飲み込みそして……黒に支配される。
ガサ……
衝撃が走る前のそれよりも品質こそ落ちるがいい毛触り、皮膚とその絨毯が擦れる音、青して何より良い晴れたにおいがする。さわやかな中にも活発さを含んでいるような、何とも言えない香りだ。再び意識がまどろみの中に落ちる…
ジリリリリリリ。オハヨウゴザイマス。アサヒ様。今日ハ、7月15日、日曜日デス。今日ノ予定ハ…
「クロマメ。スリープモードに移行・・・」
再び、朝の静寂が戻る。このスケジュール管理AIに日曜日の朝だけは邪魔されたくない。このAIは、ある幼馴染が誕生日プレゼントと称して送られたものなのだが、何故か設定を変えられず、何故か勝手に予定が入っていることがある。それも何回も。コンセントからプラグを抜くと、5分以内にスマホからコール音が絶え間なく鳴り響く。一体、俺は誰に管理されているのやら。ちなみに、この「クロマメ:という名前は幼馴染がつけたものだが、このセンスには理解しがたいものがある。と思ったことを覚えている。
何はともあれ、これでまた日曜日の朝を満喫できる。そして再び、意識がまどろみの中に落ちる・・・
「……ひ…さひ…蛇喰旭日!起きなさいっ!!」鋭い声に目を覚ます。
「……ん~?霞織?なんで俺の部屋にい…」寝ぼけたような俺の応答をぴしゃりと切り捨て、
「今日は新しくできたモールに行く予定でしょ。忘れたの?」
と呆れたように聞いてくる。
予定と言うところからすると、また勝手に予定を入れられてたらしい。
それはそうと、この幼馴染は合鍵という手を使ってちょくちょく侵入してくる節がある。お互い訳あってマンションで一人暮らしをしてるという点で、料理ができない・・・というか、料理に嫌われている俺にとって、家事(料理)の手を貸してくれるのは非常に助かるのだが、こちとら17歳の男子高校生なのだ。そこのところは少し考えてほしい。
まあ、このド天然幼馴染に言っても仕方がないのだが。
そんなことを思案していると、霞織が神妙な顔つきで「死んでる・・・?」と覗き込んでくる。ロングヘアを一つで纏めたそれからシャンプーの良い匂いがしてくる。
寝たふりをしてやり過ごそうとすると、「ふぅん」と言って。水道のセンサーを作動させる。何をしているのかと考えていると、
バシャッ
冷たッ!
冷えた液体がかかる。7月だから出始めの水道水は少し暖かいはずだが、どうやら氷を入れていたらしい。
「ちょ・・・。この濡れた絨毯をどうするんだよ」寒くて少し呂律が回らなかった。
すると、少し怒ったような口調で
「そんなの自分でどうにかすればいいじゃない。そんなことより、早くシャワー浴びて準備してよ」
そう言われ、絨毯を乾燥機に入れシャワーを浴びる。時計は午前9時21分を示していた。
最初のコメントを投稿しよう!