ウグイスは鳴いている

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 のっぴきならない世間の事情で、高校が休校になった。  それは新年を迎えてから間もなく突然に決定され、緩んだ生活習慣を脱ぎ捨てて再び世間になじんだ私たち生徒は、否応なく自宅へ送り返された。  それはそうだ。世の中は高校へ登校することはおろか、安易に外出することすら憚られる事態に見舞われてしまったから。  これは想像だけど、職員室も突然の休校に大慌てだったに違いなく、その根拠の一つとして、配布されたプリントの「休校」の文字がいくつか「急行」と誤変換されていたことが挙げられる。こちらきゅうこうできゅうこうが参ります。とっても象徴的だよね。    さてその日以降、趣味がベッドからの半径3メートル以内、つまり自分の部屋の中で十分に完結してしまう私は、ほとんど家から出ることがなくなってしまった。  高校は義務教育の現場ではない。とはいえ、ものを知らない未成年である私は十代で、まだまだ勉強に時間を取る必要があるらしく、そういった風潮ゆえに学費は親が払ってくれている。強制されないが宿命として人生に備わっている場所、という、これはまあ、私が持っている印象に過ぎないんですけど、つまり、私にとっての高校はやっぱり行く「べき」場所であって、向こうから来るなと言われるとは随分と意外な展開だな、と思った。まあ、あくまで印象の話ですよ?  で、もはや部屋にとどまるのが常態化した私の耳にさっき、ウグイスの鳴き声が届いた。窓が開けっ放しだったんでね。  へー、と思って、窓の外を見てみたんだけど、ウグイスがどこにいるのかは私の目には捉えられなかった。きっと近所の公園で木の枝にとまってほーほけきょほーほけきょ言ってるんでしょ。その目的は私には分からないし、まさかあっちも人間が鳴き声に反応して自分の姿を探してるなんて想定外でしょ。  お互い、同じ世界に住んでいても世界観が違うんだから。私からすれば、ウグイスは呑気に鳴いて呑気な春がやってきたって教える呑気な野鳥。あっちからすれば、私は巨大な危険生物。は? マジ、世界って何。    ほーほけきょ。    とウグイスが鳴く声は、教室で眠る私の耳にも届いた。。  ちなみに言うとこれは私が二年生の頃、だからちょうど一年くらい前の話。  昼休みの教室は窓が開けっ放しで、教室の後方からは花粉症持ちの学級委員長がくしゃみを何度も大きく響かせていた。  私は学校にいる間、授業中以外はだいたい寝てた。私は寝るのと食べるのが好きだけど不思議と太らなかった。だからいつまでも反省することなく食っちゃあ寝てた。  寝てる人間は音に敏感になる。目から入る情報がシャットダウンされた分、音が立体的に耳に入ってくるとでも言ったらいいのかな。教室の縦横高さと、更にその外側に伸びる世界……廊下、校庭、第二校舎、道路……それら別々の場所からやってくる音たちが、より正確な距離感で私と接してくる感じがする。  この日の教室内は、クラス替えの直後だったこともあって、新しい出会いに関する会話で盛り上がってた。  同級生たちはみな、君ってどこの中学校だ?とか、塾のあの子が共通の友達なんだ!とか、彼氏いるだの彼女いるだの、いないだの、そんな話をしてる人が多かった。  そこに学級委員長のくしゃみが加わり、外ではウグイスも鳴いていた。誰かがペンケースを落としたジャラジャラという音がして、その周りで小さく驚きの声が上がったりもしていた。  それらの音が全部うずまきになって私の耳の穴に流れ込んだ。その時の私は、顔面の左半分を机に押し付けるように寝ていたため、主に右耳の穴の中に音は吸い込まれた。それらはやがて、脳内で一つの音に要約され、こうなった。  ほーほけきょ。  春だねえ、と、つまりはその程度の内容だった。私にとっては。  私は一度、顔を上げて黒板の上の丸時計を見た。針は13時20分にさしかかろうとしていた。  つまりあと10分くらいは眠れる。そう判断した私は、その貴重な睡眠時間の質をあげるべく、カバンからワイヤレスのイヤホンを取り出し、耳に装着した。次いでスマホの音楽再生アプリを開くと「ゆったり」と名付けられたプレイリストを開いてシャッフルボタンをタッチ。これで良質な睡眠が確保できるはずだった。  ところが、イヤホンはスマホとのワイヤレス接続が正常に行われていなくって、私のお気に入りの音楽は私の耳から少し離れた机の上で小さく響いていた。  私はこういうことをよくやる。登校中の電車の中でお気に入りの音楽が流れ出し、周囲に聞かれてしまったこともある。でも私はそれで後悔したりはしない。確かに恥ずかしさはあるけれど、もし私の犯したミスで誰かがその曲を気に入ってくれるようなことがあれば、それも良いかって思ってしまう楽天的な私だ。その性格ゆえの注意散漫さが同じミスを頻繁に起こす原因なのだけど。      というわけで、さほど動じることもなく私はスマホとイヤホンを連携させて眠りについた。  先ほどのほーほけきょへ覆いかぶさるように音楽が鳴って、私の耳にやんわりと蓋をした。曲の中では雨が降っている。ゆるゆるとしたメロディーにのって、私の意識も脳みそから溶け出そうかという頃、私の右耳から突如として音楽が引っこ抜かれ、環境音に現実の厚みが蘇った。 「ねえ、寝てばっかじゃん」  今世紀最大か!てな驚愕具合で机から跳ね上がった私は、声の主であるムラカミと目があった。 「さっき、流れてたあの曲さあ、好きなんだ?」  動揺する私。だってこの時、私とムラカミは言葉を交わしたことがないどころか面識がなかった。  それでもお構いなく話し続けるムラカミの顔を私は「何言ってんの?」って感じで見ていた。  先ほどまで浮かれた話をしていた周囲のクラスメイトたちも急に私たちに注目し始めた。ていうか、多分、みんなは私たちに浮かれた筋書きを求めて注意深く観察していたんじゃなかろうか。ほーほけきょめ。真相は分からないけど、人の注目が私に集まっている時点で最悪だった。  ムラカミの持つイヤホンから小さく音が漏れていた。私の世界は右耳と左耳で大きくバランスを崩していたから、すぐに元どおりにしたかった。  私はムラカミに手を差し出し、イヤホンの返却を求める無言の圧力を発した。  はじめニコニコしていたムラカミも徐々に気まずくなったのか、苦々しい顔をして私にイヤホンを返すと、自分の席へと戻っていった。  私は無言でムラカミを許すと、イヤホンを装着した。  音が頭蓋を伝って脳みそを振動させる。時計の針は13時25分を指していた。  両耳から雨を歌う歌が流れていて、私ってこの曲ずっと好きなまんまだなーって思っていた。  見慣れた景色の木々は枯れている。窓の外を流れていく看板で動体視力を養うみたいなくだらない事も相変わらずやってしまう私は、やっぱり私なんだなって思わざるをえなかった。なんだかなー。  とか思ってるうちに電車が速度を緩めて、駅名がアナウンスされた。そこは私には関係のない場所。よく通過する駅だけど、一度も降りた事はないから、駅前にあるコンビニの名前も、というかそれがあるのかどうかすらも分からない。知らない。  電車が停車してドアが開く。ふしゅーっとエアーが漏れると同時に冬の寒気が車内に広がった。暖房の熱とぐるぐる混ざり合っていくのが目に見えないけど分かる。  寒がりな私が暖房を応援していると、ポケットでスマホが震えた。普段あまり人から連絡が来ないタイプの私は、億劫ながらもしぶしぶスマホを取り出してみた。  ムラカミからメッセージが届いていた。 「おお」  と思わず口にして、メッセージを確認すると「近頃どう? 元気してんの?」って呑気な内容。 「元気だよ。つっても病気はしてないよ、くらいの意味だけど」 「そうなんだ、って、見れば分かるな。元気そうだね」  と、ムラカミはカフェラテを口にしながらウンウンうなずいた。 「そっちこそどうなん? 仕事、忙しいの?」 「あー、まあ、ぼちぼち?」 「なにぼちぼちって」 「部署が変わったばっかりだからさ、なにやっても大変で」 「そりゃそうかもだけど、じゃあ忙しいんだ」 「そうね」 「ふーん」とわたしが相槌をうっていると、店員が先ほど注文しておいたチーズケーキを運んできた。鼻が思わずふんと鳴る。甘い物に飢えていたから。 「好きだね甘い物」そう言ってムラカミはニヤニヤと私を観察する。 「ムカつくな」 「怒るなよ、ベースがいなけりゃ締まらないだろ?」  ああ、と声が漏れた。いや、漏れてはなかったのかもしれないけれど、その声が音になったとかならなかったとか、あんまりそんなのは関係なく、私はムラカミの言葉に突き崩されてしまった。 「私はさ、もう、仕事辞めちゃいたいよ」  今度はちゃんと音がのった。  カフェラテに伸ばしかけていた手を止めて、ムラカミは私を見た。そんなに驚いてもいないような、でも少しだけ意外だなという意味合いを含んだ微笑みを浮かべていた。 「そっかそっか」 「本当に辞めちゃうよ、私」 「ササキはどう思う?」 「え?」  ササキは話を聞いてなかった。ウインナコーヒーのクリームをどうにかするのに必死で、それどころではなかったのだろう。私の目にはハッキリとその様子が捉えられていたので、腹が立った。 「ねえ、真面目に会議に参加してよ」 「あ、ごめん」と言いつつ、ササキはウインナコーヒーをチラチラ見ていた。そんなに気になるかね。 「まあまあ。俺は、別にいいと思うんだよね、オリジナルオンリーでいっても。でもさ、それだけだとみんなシラけちゃうかなって思って。一応、文化祭の出し物なわけだし」 「私の詩じゃみんなをシラけさせちゃうっていうわけ?」 「作曲は俺じゃん」  ムラカミは困ったなあとでも言いたげに微笑んで、カフェラテに口をつけた。 「コピーバンドって、それさあ、いかにも高校の文化祭の出し物、って感じじゃん。それかおじさんたちの趣味とかさ。恥ずかしくない?もしコピーやるんだったらやるなりの思想性というか、バンドとしてのポリシーを持って……」 「分かった、分かった」そう言ったムラカミのコーヒーカップは空だった。「おかわりください」 「本当に分かってる?」 「なんか分かる気がします」頼り気ない、アンニュイな表情を浮かべてササキが言った。一つ後輩なので、たまに敬語になるのがこいつの憎めないところだ。 「でしょ?」 「やっぱ、バンドやるからには、自分たちの音を鳴らさなきゃダメっすよね」 「そうそう」 「もっと、こう、自分たちで自主的に追及していくっていうか」 「そう、それが言いたかったの」 「おいおい、バンドのリーダーは俺だぞ」ムラカミがキョロキョロしながら言った。さっきのおかわりを店員にスルーされちゃったから。「二人を誘ったのだって俺じゃん」 「それは、本当にごくろうさま。今は感謝してるよ。はじめはウザかったけど」 「あのさあ……」とムラカミが言いかけると、私たちのテーブルのそばを店員が通った。「あ、おかわりください」  しかし無情にも、店員は再びムラカミを無視して過ぎ去ってしまった。話す言葉は大きいくせに、注文の声が小さすぎると思うんだ、ムラカミは。  しかし、そこがムラカミの良いところで、ムラカミをムラカミたらしめている一部分でもあって、根暗が集まってスリーピースバンドになったのも、やはりムラカミがムラカミだったからと言えなくもなかった。 「先輩、最高過ぎます」  ササキはそう言ってクスクス笑いながら手を上げた。店員はすぐに気がついた。  ササキの腕は長い。そもそも身長が186センチあり、根暗にしては目立ち過ぎる。 「ムラカミさんがいてくれてよかった、いきなり楽しくなったしね、学校生活」  そう言ってササキは私を見た。 「それは、確かにそう。認めざるをえないね」  店員がやってくる。きっと、ムラカミはカフェラテのおかわりができるはずだ。 「お前、やっぱ目立つな」ムラカミはササキのピンと伸びた指先を見て羨ましそうに言った。「塔かよ」 「塔です」 「ほんと、塔みたい」  ベッドの上で伸びをしている彼を見て、久々にそう口に出した。 「塔でしょ」  彼はそれを特に冗談ともとらないで、自分の見た目が「塔みたい」だってことを単に肯定しているようだった。  私はマグカップから上がる湯気がホカホカするのを手に感じつつ、テーブルの前に腰を下ろした。  すると、彼はもう一度ベッドの上で伸びをして、再び布団に潜りこもみやがった。 「おいおいおいおいおい」  せっかく飲み始めたカフェラテをテーブルに置き、私は彼を揺さぶることにした。何故なら今日は給料日後の休日で、久々に二人で買い物にでも出かけようという話になっていたから。 「今寝たらもう外出る気なくすでしょ?」  私は甘えるような諭すような、はばからずに言ってしまえば子供をあやすような声で彼に訴えた。 「ライブで疲れちゃったんだよ」 「でも今日は前から約束してたでしょ? 分かってたはずたじゃん、疲れるの」 「思いのほか疲れたの」 「じゃあ、もう今日は行かないの?」 「行くよ、もうちょっと寝たら」  居候がダラダラしてんじゃねーよ、と言葉が喉まで突き上げられて、そのまま落っこちた。これはもう無理。可能性が無いわけではないけど、限りなくゼロ。  悪あがきに二回ほど彼を揺さぶると、私はテーブルに戻ってココアを飲みはじめた。  私は忌々しくササキを見た。  ササキは悪びれもせずにドラムを調整してる。 「まあまあ」って、私の不機嫌を察したムラカミがフォローしにやってきた。「バイトの時間が長引いちゃったんだろ?」 「それだったらそれでちゃんと連絡すればいいじゃん」 「自主練してるんで大丈夫っす」ササキはぶっきらぼうに言った。黙々とドラムを叩いたりいじったりしてて、いきなり出た言葉がこれだよ。 「バンドなんだから合わせなきゃ意味ないじゃん!もうすぐ本番近いし、スタジオ代だって高いんだし……」 「まあまあまあまあ」と、ムラカミも困ってまあまあ言う機械と化した。 「ほんと、ほんとムカつくササキ!」  と叫んでから途切れなく喚き散らして、私はスタジオを飛び出した。  だから、この後の約一時間、ムラカミとササキの間でどんなやり取りがされたかは分からない。けど、おおよその検討はつく。 「行っちゃったね」 「そっすね」  問題の渦中にいながらまるでそっけないササキの態度に、ムラカミはイラッとした、かもしれないけど、おそらくビクッともしたはず。 「時間のことは、しょうがないけどさ、やっぱり俺たち三人でバンドやろうってなったじゃん、仲良くやろうぜ、青春だし」 「それは、そっすね」 「おお」 「いや、マジで先輩の言う通りっていうか、悪いのは俺です。かなり、俺です」 「いやいや、俺も別にササキを責めたいとかじゃないんだけどさ、まあ、バランスよ、葛藤の? 青春の? 俺たちの?」 「俺……ああ」   ササキが泣いたっていうのは多分、こういうたわいのない会話の中でのことだと思う。  ムラカミはきっと、テンパった。人を泣かせたいとか思うような奴じゃないんだ。いつだって。 「うん、ササキの自責の念ていうか、なんか、さっきは引っ込みがつかなかった感じ、分かった。分かったっていうのは僭越かもしれないけど、分かった気がした。うん。もし、よければさ、さっと謝っちゃおうぜ。あいつもきっと、後悔してると思うんだ、なんとなく」  こうして、ササキはスマホを取り出し、私に謝罪のメッセージを送ったに違いない。この件に関して当のササキは多くを語らないし、ムラカミもふふん、って感じでいつもごまかしにかかる。私も私で、あえて深追いはしない。とりあえず、ササキが泣いて反省してたってことだけ分かればそれで満足だったし、私自身も、子供っぽい振る舞いしてごめんねって思っていた。    ムラカミは私たちを集めて、バンドにして、文化祭のライブも成功させた。  私たちはその後、バンド活動と並行して遊びまくり、楽しい時間を一緒に過ごした。  私は受験を一足先に終えて、都内の私立大学に入学した。   その一年後、浪人したムラカミと現役のササキが同時に大学生になった。  ササキは私と同じ大学で、ムラカミは地方の国立大学だった。    私はボランティアサークルに入ったけど、ムラカミとササキは各々軽音楽サークルに所属して、音楽活動を続けた。バンドは事実上解散になった。    それでも年に数回は三人で集まった。    しかし私とササキがしれっと付き合って、別れて、三者三様の気まずさからなんとなく集まることがなくなり、月日は流れた。    恋愛したり転職したり引っ越したり、個人的には色々あった20代が終わる頃、春になってムラカミが死んだ。    棺の中でムラカミは、目をつぶって鼻に詰め物をされていて、見た目は確かにムラカミなんだけど黙っちゃってるから、それが本当にムラカミなのかどうかは確かめようがなく思えた。  通夜が始まり、一人ムラカミと出会ってからのあれこれを追想しつつお焼香の列に並んでいると、前の方にササキの姿を見つけた。  それは多分、ササキだったんだと思う。  先にお焼香を終えて立ち去ろうとしたそのササキらしき人物は、振り向きざまに私の視線に気がついた。  私は、とっさに軽い会釈をした。  ササキ風の男もハッとして会釈を返すと、そのまま葬儀場を出て行った。私の知っているササキよりもこころもちふっくらしたその男は、相変わらず塔みたいな図体で頼り気ないアンニュイな表情を浮かべてた。  ムラカミの通夜を終えた私には私の生活が待っていた。    私はアパートに着いて喪服を脱ぐと、そのまま着替えも中途半端にベッドの端へ腰をおろした。  明日は日曜日で、ムラカミの告別式だけど、足を運ぶつもりはなかった。  そうなると明日の私には予定なんてなかった。多分、ササキと生きているうちに会うのは今日が最後だっただろうし、明日はムラカミの体が灰になるのだけど、私には何の予定もなかった。  私は今のところすこぶる健康で、かなり調子が良くって、どうやら私は明日も私でいるらしい。強いて言えばそれが明日の私の予定だな。  私は今、人生のどこらへんを歩いてるんだろうね。  そんなあれこれを考えているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていた。眠りに落ちる直前に何を考えていたのかは、全く覚えていない。  翌朝の私は、ウグイスの呑気な鳴き声で目を覚ました。  ほーほけきょ。  ウグイスは何度も鳴いていた。  ウグイスの鳴き声ってなんでこんなに呑気なんだろ。よりによって春の鳥の鳴き声がこれって本当にあざといというか……でもまあ、だから長い間みんなに可愛がられているんだろうね、きっと。  明日も学校は再開しない。明後日も明々後日も。多分、今月中の再開は絶望的だろう。  バンドの練習もしたいけど、外出するだけで嫌そうな目を向けられるから、ギターなんて背負ってたら怒鳴られかねないな。  あれこれごちゃごちゃ考えていると、こんな私でも多少、人恋しくなってきた。  あとでムラカミとササキに連絡してみよ。二人とも元気にしてるかな。  うーん、と唸りながらこりにこった首を回してみると、ボキボキボキとあんまり好きじゃない音がたくさん頭蓋骨に響いた。  ほーほけきょ。  ウグイスはまだマイペースに鳴いていた。ほんと呑気。ウグイスはウグイス同士だと「あいつの鳴き声は渋い」とか、「こっちは可愛いな」とか思うのかな。逆にウグイスは私たちの声をどうだろう、聞き分けられるのかな。    私はベッドの横に立てかけてあったエレキギターを手に取り、無言でシャカシャカやった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!