第1話 金色

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 現実を受け入れられず、今もなお堪えきれなくなってしまう子はよく見る。多くの命が消える中、生き残った子供たちにとって未来は不透明だった。  初めてこの公民館に来た日なんてもう全方向から泣き声が聞こえていた。現実を嘆き悲しみ、苦しんでいた。泣き声、呻き声、見たくないものや聞きたくないことに囲まれる生活。たまに誰かが死んで、公民館全体が暗くなった。  そんな状態は随分改善されてきたが、まだまだ傷は癒えていない――。エイタは寒くもないのに暖まっていたはずの体から鳥肌が立った。下唇を噛むと、ポケットに手を突っ込んで再び歩き始める。 「おいエイタっ。どこ行ってたんだ?」  下の階から階段を走ってくる音がして、振り返るとすぐに廊下の奥まで響くような大きさで声を掛けられる。 「ちょっと散歩に」 「俺に何か言ってから行けよ。探してたんだぞ」  近づいてきて背中を軽く叩いてくる男はエイタの二つ年上のショウゴ。短髪で13歳のエイタと変わらない背丈のさわやかな少年はニカっと笑っている。 「おい早く昨日やったゲームの続きやろうぜ。ほら行くぞ」 「あ、俺トイレ寄ってから行きます」 「分かった。早く来いよ」  ショウゴはエイタを追い抜いて、また階段を走って上っていく。エイタにとって昔からよく知っている先輩だが相変わらず元気が良い。  トイレに寄ったエイタは外から帰ってきたのでハンドソープを使い念入りに手を洗った後、各部屋から話し声が微かに聞こえる4階の廊下を窓越しに見える景色を遠目で眺めながら進んだ。  騒がしく声が廊下に漏れているドアに辿り着くと、入る前にため息を一つ吐き出してからドアを開ける。
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